【セミナー】がん遺伝子情報を利用したがん医療の未来と課題

取材・文 がん+編集部

GGN病変
順天堂大学大学院医学研究科臨床腫瘍学
順天堂大学医学部腫瘍内科学研究室 教授
加藤俊介先生

 P5株式会社は1月21日、がん市民公開講座「ゲノムが変えるがん治療の最前線」を開催し、順天堂大学大学院医学研究科臨床腫瘍学教授の加藤俊介先生が「がんゲノム情報を利用した将来のがん医療とその課題」をテーマに講演されました。

 がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に傷がつくことで発生します。細胞を増殖させるアクセルの役割をする遺伝子に傷がつくと増殖し続け、細胞の増殖を止める遺伝子に傷がつくとブレーキがかからなくなります。これまでの研究からがんに関わる遺伝子が発見されており、数十~数百の遺伝子をまとめて解析できる遺伝子パネル検査と呼ばれる検査も行われるようになっています。検査を受けることでわかることは何か、利点や欠点など、患者さんが知っておくべきことについて順天堂大学医学部腫瘍内科学研究室教授の加藤俊介先生にお話を伺いました。

遺伝子検査により個別化が進むがん薬物治療

 がんの薬物治療では、殺細胞性の抗がん剤が多く使われています。抗がん剤は、がん細胞が分裂する仕組みに作用しますが、分裂しようとしている正常な細胞にも働いてしまいます。そのため、副作用が起こります。がん細胞は、遺伝子の異常によりできた異常な蛋白質から発するシグナルにより増殖し転移していくことがわかったため、悪さをする異常な蛋白質をターゲットにした薬が開発されました。それが分子標的薬です。

 分子標的薬は、がん細胞の増殖や転移を行う特定の目印をめがけて攻撃をするのですが、副作用がないわけではありません。また、がん細胞の遺伝子の異常は1つではなく、患者さんによって異なるため、個々の患者さんのがん細胞の遺伝子の異常にあわせて分子標的薬を使用します。そのため、患者さんのがん細胞にどんな遺伝子の異常があるかを調べる必要があります。しかし、薬の適応と検査方法が決められているので、時間のロス、検体のロス、検査費用のロスなど、効率が悪いことが問題となっています。

数十~数百の遺伝子をまとめて解析する遺伝子パネル検査

 そこで登場したのが、遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査です。遺伝子パネル検査とは、数十~数百の遺伝子をまとめて解析する技術で、一度にがんに直接かかわる複数の遺伝子の構造解析を行い、患者さんの発がん原因を調べることができます。遺伝子パネル検査の利点は、一度に検査できるため時間が短縮できること、腫瘍検体の消費を省けることです。また、ごく稀な変異を持つ患者さんを見つけ出す可能性もあります。欠点は、保険適応ではないこと、臨床的有用性の評価がまだ不十分であることが挙げられます。また、全ての遺伝子変異に対して薬があるわけではないので、異常がわかっても、使用できる薬剤がない可能性もあります。

患者さん自身が「遺伝子を調べるという意味」を理解したうえで検査を

 順天堂大学では「MSK-IMPACT」という検査をおこなっています。検査を受ける患者さんに多いのは、再発したため「何か良い薬がないか」という理由からですが、この検査によって治療可能な変異が見つかった患者さんは、約4割程度だったという海外の報告もあります。これは、治験中の薬も含んだ数字です。患者さんへの恩恵はまだ探索的な部分がありますが、このような情報が蓄積されることによって、新たな治療開発が加速していくのではないかと思います。いま目の前の患者さんへの恩恵は少ないかもしれませんが、将来的に、どの変異に対しても薬が開発されるようになれば、大きなメリットが出てくると感じています。

 遺伝子パネル検査を受けるうえで大切なことは、患者さん自身が「遺伝子を調べる意味」をきちんと理解してから検査を受けることです。検査結果によっては、「がんに関係する異常かもしれないけど病的意義が不明だった」、また正常の部分と比較することで、「知りたくなかったような遺伝病のリスクが分かってしまう」こともありえます。また医療従事者側も、そのような情報をきちんと患者さんに伝えられるような体制がまだしっかりとは整っていないのが現状です。そのため、遺伝子パネル検査が普及する前までに、遺伝子の異常をしっかり患者さんに伝えられるような医療現場の体制づくりをしていく必要があります。

国も検討を始めた“がんゲノム医療”推進のための体制づくり

 そこで、国が検討しているのが「がんゲノム医療推進コンソーシアム」です。これは、全国に設置予定のがんゲノム医療中核拠点病院を中心に、がんゲノム医療を推進するための体制をつくっていこうとするものです。イメージとしては、遺伝子検査に関する説明を患者さんに行ったうえで検査を先進医療として実施。その検査結果を中核拠点病院で検証し、それを踏まえて患者さんに治療方針を伝えるという流れです。このように、ただ遺伝子検査を行うだけでなく、その後の治療も含めた医療体制をつくっていくことが大切です。

 次世代シークエンサーの登場によって、さまざまな情報がわかるようになりました。それと当時に、それぞれの患者さんに適した医療を提供していく体制が必要です。いま、その第一歩として、新たな取り組みが始まろうとしています。