第4回日本がんサポーティブケア学会 ポスターセッションより「がん悪液質」

がん悪液質をめぐる研究成果が多く報告される

2019.10 提供●がんサポート

 がん悪液質は、進行がん患者の80%に認められ、体重減少や食欲不振といった典型的な症状に加えて、化学療法の効果減弱、副作用や治療中断の増加を引き起こし、さらには生存率にまで影響を及ぼす(がん悪液質ハンドブック、2019)。このため、がん治療の分野では、悪液質をいかに早く見出し、早期介入するかが重要な課題となっている。第4回日本がんサポーティブケア学会でも、このがん悪液質をめぐる研究成果が多く報告された。ここではその中から、ポスターセッションを中心にいくつかを紹介する。

“体細胞量/現体重比”――がん悪液質の入院時期決定の一助に

 がん悪液質はサルコペニア※1を伴い、骨格筋量などの体組成の成分はその進行とともに変化する。そうした変化は、外来患者と入院患者で特徴や違いがあるのか。また、どの時点が外来から入院への目安となるのか。藤田医科大学病院緩和ケアセンターの研究グループは、この点を比較・分析したデータを報告した。

 それによると、対象は外来群17例(平均73.3歳、胃がん4例、大腸がん3例、肝がん3例、膵がん2例、肺がん3例、腎がん1例、舌がん1例)、入院群18例(平均76.1歳、胃がん5例、大腸がん3例、肝がん3例、膵がん3例、肺がん2例、前立腺がん1例、咽頭がん1例)。体組成の成分である、BMI(肥満度を示す体格指数)、体幹部位相角(BT-PA)、骨格筋量/現体重比、体細胞量/現体重比、細胞外液/総水分量比、骨格筋量指数(SMI)について両群間の有意差を検討した。

 その結果、調べた6項目のうち「体細胞量/現体重比」で、外来群と入院群との間に有意差が認められた。さらに、ROC解析※2でそのカットオフ値を求めたところ「0.412」だったという。

 今回の研究は、がん外来患者と入院患者の特徴の違いを、体組成分析データから比較したもので、体細胞量/現体重比に有意差を認め、カットオフ値が0.412だった。カットオフ値は入院時期を予測する1つの目安となるところから。同グループでは「このカットオフ値が、がん悪液質の入院判断の一助となる可能性が示唆された」と結論づけた。

 また、骨格筋量、体細胞量などで有意差が出なかった一因として、入院患者における悪液質のステージがそろっていなかった点を挙げ、「今後は、がん種別、悪液質ステージ別にも検討を加えていきたい」としている。

※1 サルコペニア=骨格筋量と骨格筋力の低下により身体機能が低下している状態

※2 ROC解析(受信者動作特性曲線)=もともとレーダーシステムの通信工学理論として開発されたもの。臨床研究では、連続変数である独立変数と二分変数であるアウトカムとの関係の強さを評価する方法として、診断検査の有用性を検討する手段として用いられる

(発表演題PS14-15:「外来と入院におけるがん患者・体組成分析データの違いに関する検討」、藤田医科大学病院緩和ケアセンター、同大医学部外科・緩和医療学講座の共同研究)

進行非小細胞肺がん――悪液質の存在は免疫チェックポイント阻害薬の効果を損なう

 「PD-1/PD-L1阻害薬」は免疫チェックポイント阻害薬の1つ。複数の前向き試験によって、進行非小細胞肺がんに対する有効性が示されている。しかし、がん悪液質の有無が同薬の治療効果に及ぼす影響については明らかになっていない。静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科と画像診断科の共同研究グループは、この点について検討。「がん悪液質の存在は、進行非小細胞肺がんの治療効果に負の予測因子になりうる」と指摘した。

 対象は、2016年3月~2018年12月の間にPD-1/PD-L1阻害薬が投与された進行・再発非小細胞肺がんのうち、ドライバー遺伝子※1変異陰性、ECOG-PS※2:0-1の患者。当初286例が登録されたが、ECOG-PSが2以上、PD-L1の発現が不明などの理由で178例が除外され、最終的に108例での検討となった。これを「悪液質群」(PD-1/PD-L1阻害薬開始前6か月間の体重減少が5%以上、52例)と「非悪液質群」(体重減少が5%未満、56例)に分け、治療成績を比較した。なお、両群の年齢、性別、ECOG-PS、喫煙歴、組織型などに有意な差はなかった。

 その結果、PD-1/PD-L1阻害薬による奏効率(ORR)は、非悪液質群ではPD-L1発現率が50%以上の患者で77.1%、PD-L1発現率が0~49%の患者では23.8%だったのに対し、悪液質では、それぞれ12.5%、7.1%と有意に低かった。また、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)も悪液質群では有意に短縮していた。さらに、PD-L1発現を含む背景因子で調整しても、悪液質群ではPD-1/PD-L1阻害薬の効果が不良となっていた。

 このデータから同グループでは「悪液質の存在は、進行・再発非小細胞肺がんに対するPD-1/PD-L1阻害薬の治療効果を減弱させ、負の予測因子になり得る」としている。

※1 ドライバー遺伝子=がん遺伝子、がん抑制遺伝子など、がんの発生・進展に直接的に重要な役割を果たす遺伝子のこと。遺伝子変異が起こると、その正常な機能が失われる

※2 ECOG-PS=ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)という米国の腫瘍学の団体が定めた全身状態の指標。PS(Performance Status):0(まったく問題なく活動できる)、PS:1(歩行可能で、軽作業や座っての作業ができる)から、PS:4(まったく動けない)までの5段階に分けられる

(発表演題PS14-11:「癌悪液質が進行非小細胞肺癌に対するPD-1/PD-L1阻害薬の治療効果に及ぼす影響」、静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科、静岡県立静岡がんセンター画像診断科の共同研究)

がん悪液質は患者の栄養状態、症状、QOL、食に関する苦悩などに強く影響

 外来がん化学療法を受ける患者では、がんそのものや悪液質、また治療による副作用が、QOL(生活の質)や食に関する苦悩に大きく影響するとみられるが、実態はよくわかっていない。そこで、常盤大学人間科学部、東京医科歯科大学附属病院、聖隷クリストファー大学看護部などの共同研究グループは、がん悪液質の指標の1つであるModified Glasgow Prognostic Score(mGPS)と身体組成、栄養相談のニード、食に関する苦悩の関連を調べ、分析結果を報告した。ちなみに、mGPSは、血中のCRP(C反応性蛋白)と血清アルブミン値から、悪液質の程度を客観的に判定する方法。CRPで炎症反応の亢進具合を、血清アルブミン値で栄養状態をチェックし、その数値を総合して悪液質の程度をA「正常」、B「低栄養」、C「前悪液質」、D「悪液質」の4群に分けて評価する。

 対象は、外来がん化学療法を受けている151例(頭頸部がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肺がん)。平均年齢66.5歳で、ステージⅠが5例、Ⅱが25例、Ⅲが55例、Ⅳが66例という内訳だった。これを、mGPSに従って、①スコア0群(86例):アルブミン≧3.5g/dlかつCRP<0.5mg/dl、②スコア1群(42例):アルブミン<3.5g/dlかつCRP<0.5mg/dl、③スコア2群(23例):アルブミン<3.5g/dlかつCRP≧0.5mg/dl――に分けた。そして、各群別にPG-SGA※1、EORTC QLQ-C30※2、栄養相談のニード、食に関する苦悩との関連性を調べた。

 その結果、mGPSスコアが高いほど、つまり悪液質が進むほどBMIと体脂肪率が有意に低かった。またPG-SGAでは、口渇感、嚥下障害、栄養不良スコアの低さ、生活活動レベルの低さが、QLQ-C30では呼吸困難、倦怠感、役割機能の低さが、mGPSスコアと関連していた。一方、栄養相談ニードとの関係は認められなかったが、食に関する苦悩では、「無理に食べさせられている」、「家族や周囲の人のため無理をして食べた」、「食事のことで用意してくれた人と言い争いになった」など、食事に関する患者と家族の衝突にmGPSスコアとの関連が認められた。

 エビデンス(科学的根拠)に基づく診療ガイドラインでは、すべてのがん患者に栄養スクリーニングを実施し、栄養リスクのある患者には、早期からの栄養相談を含めた栄養サポートが推奨されている。同グループは今回の検討を踏まえ「がん悪液質の影響が強まる前に、多職種連携によるケアで栄養状態の改善、症状の緩和、食に関する苦悩の軽減を図ることが重要欠かせない。それが、悪液質の進行を抑制しQOLの向上につながると思われる」とした強調した。取材・文●「がんサポート」編集部

※1 PG-SGA(Patient Generated Subjective Global Assessment/患者自記式による主観的包括的評価)=栄養スクリーニングの際に行うもので、栄養状態を主観的に判断する方法の1つ。検査データではなく、患者の様子を確認することで得られる情報をいう

※2 EORTC QLQ-C30=欧州がん研究治療機関(EORTC)が作成した、身体機能、症状、全般的QOLなど30項目からなる質問票。世界的に広く用いられている

(発表演題PS14-7:「外来化学療法を受けるがん患者の悪液質と関連する栄養の要因」、常盤大学人間科学部健康栄養学科、東京医科歯科大学医学部附属病院臨床栄養部、東京医科歯科大学附属病院看護部、東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科、聖隷クリストファー大学看護学部、大阪市立総合医療センター緩和医療科、東京医科歯科大学医学部附属病院食道外科、東京医科歯科大学医学部附属病院消化器化学療法外科、東京医科歯科大学大学院心療・緩和医療学分野の共同研究)

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