第60回日本肺癌学会学術集会より Patient Advocate Program(患者・家族向けプログラム)がん治療における食事指導と補助食体験

近畿大学病院栄養部がん病態栄養専門管理栄養士 梶原克美 さん

2020.1 提供●がんサポート

 がん患者は食欲不振などによって体重が減少しやすく、進行するほどその度合いが増す。体重が減ると、体力が低下し、治療効果にも悪影響を及ぼす。そこで重要となるのが栄養管理だ。近畿大学病院栄養部がん病態栄養専門管理栄養士の梶原克美さんは、がん患者が栄養不良に陥る原因、栄養を十分に摂ることの意義、そして具体的な食事の工夫などについて、患者・家族へのアドバイスを含めて、わかりやすく解説した。

治療の副作用とがん悪液質によって栄養不良に

 梶原さんはまず、栄養面からみたがん患者の特徴を紹介し、「がん患者はいくつかの理由から栄養不良に陥ることが多い」と指摘した。

理由の1つは、抗がん薬治療、放射線治療などによる副作用の影響だ。吐き気や嘔吐(おうと)、口内炎、味覚異常、下痢、便秘、発熱などによって食欲不振となり、エネルギーの摂取量が低下する。

一方、食事をきちんと摂っているのに、どんどん体重が減り、元気がなくなっていくこともある。これには「がん悪液質」という病気が関係する。がん細胞の刺激で、炎症性サイトカイン(免疫細胞間で情報伝達を担う物質のうち、炎症反応を引き起こすもの)が過剰に分泌されて慢性炎症や代謝異常を引き起こし、その結果、筋肉量(骨格筋)が減る。そして、筋肉量の減少に伴って次第に体重も減ってくる。

体重は、栄養が足りているかいないかの重要な指標だが、がん患者の多く、とりわけ胃がん、膵がん、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん)などでは、体重減少が顕著に起こることが明らかにされている。

 栄養不良による体重減少は、体力を低下させるだけでなく、治療効果にもマイナスの影響を与える。それだけに、がんと闘うためには十分な栄養を摂取することが重要となる。

梶原さんは「栄養療法のみでがんが治癒するわけではない。しかし、適切な栄養管理は、身体機能を維持、増進させるために欠かせない」と強調した。

栄養バランスの取れた食事を

 では、どのように栄養管理を進めていけば良いのか。さしあたって問題となるのは「何を食べたらいいのか?」だが、この点について梶原さんは、食事には特に制限はないとし、「適正な栄養バランスの取れた食事」を勧める。

 バランスの取れた食事といっても、特別なものではない。基本は、朝、昼、夕3食とも、主食(ご飯、パンなど)、主菜(肉、魚、卵、大豆製品などのおかず)、副菜(野菜)をそろえること。これだと、主食から炭水化物を、主菜からタンパク質や脂質を、そして副菜からビタミン、ミネラル、食物繊維をしっかり補給できる。さらに、1日1回は果物や乳製品を摂るのが望ましいという。

 必要な栄養量としては、標準体重×30キロカロリー(kcal)が目標。例えば、体重40kgなら1日1,000~1,200kcal、体重50kgなら1,250~1,500kcal、60kgなら1,500~1,800kcalということになる。

 1日1,600~1,800kcal(普通の人の必要栄養量)を摂取するには、1回の食事として次のようなメニューが目安だ。

・主食:ご飯は茶碗で軽く1膳、パンなら6枚切り1~2枚
・主菜(1~2品):魚1切れ、刺身5切れ、肉/スライス3枚、卵1個、豆腐100g、納豆1パックなど
・副菜(1~2品):生野菜/両手で100g、温野菜/片手で100g
・果物(どれか1日1つ):バナナ1本、ミカン2個、リンゴ1/2個など
・乳製品(1日1~2回):牛乳コップ1杯、ヨーグルト1~2個など

 ちなみに、がん情報サービス(国立がん研究センターがん情報対策センター)では、がんのリスクを低下させる5つの生活習慣として、禁煙、節酒、食生活を見直す、適正体重を維持する、身体を動かす――を挙げ、「食生活を見直す」については、砂糖入りの飲料やファーストフードは控えめに、野菜と果物を合わせて400g食べる、食塩を摂り過ぎない、肉の摂取は週に500g以下に、ビールは1日350ml、日本酒は1合まで、としている。

 栄養摂取のポイントは、バランスの取れた食事から必要栄養量をきちんと摂ること、そして適正体重を保つこと。肥満ややせ過ぎは、がん死亡のリスクとなる。

 また、がん治療の代替療法としてサプリメントがあるが、梶原さんによると、その多くは有効性についてエビデンス(科学的根拠)が得られておらず、意義は不明だという。

糖尿病、高血圧など合併症にも配慮

 がん患者の中には、糖尿病や高血圧など他の疾患を併発している人も多い。そうしたケースでは食事に関してどのような注意が必要なのか。梶原さんは続いて、その点をわかりやすく解説した。

 それによると、例えば糖尿病を合併している患者では、①適切なエネルギー摂取、②適切な栄養バランス、③1日3食、規則的に――を原則とする。とくに、砂糖の多い菓子類を避けるようにする。これらは血糖値を急激に高め、食後高血糖を招くリスクがある。

 また、高血圧を併発している場合は、食塩摂取量を1日6g以下にする。ただ、我々が普段口にする食品には、意外と多くの塩分が含まれており、減塩はなかなか難しい。梶原さんは、減塩してもおいしい食事の工夫として、香辛料や香味野菜、香ばしい風味の利用、野菜は茹(ゆ)でて調理する、だし汁や酒で下味をつけることなどをアドバイスした。

もっとも、減塩は大切だが、味気ない食事で食欲が進まないのでは元も子もない。「食欲がないときには、減塩よりも栄養を摂ることを優先することが大事」(梶原さん)だという。

がんの治療中は無理をせず“食べられるものを食べる”

 一方、がん治療中の食事の摂り方はどうすればいいのか。梶原さんはその基本として、次のような点を挙げた。

①食べられるときに食べる
②食べたいもの、喉(のど)越しの良いものを食べる
③無理をしない
④体重が減ってきたときには、エネルギーアップのため栄養補助食品を試す

とくに注意したいのは、食事が義務感や苦痛にならないようにすること。そのために「気分のよいときに、食べられるもの食べると気楽に考えて」と梶原さん。

 また、少ししか食べられないときには、主菜+主食をメインにし、エネルギーとタンパク質の補給には果物や乳製品を役立てる。野菜はエネルギーが低いので、無理をしない。ただ、忘れてならないのは水分の補給。食事量が少なくなると水分摂取も減る。牛乳、スープ、果物や野菜のジュース、経口補水液などを利用し、食事以外から1日1~1.5リットルの水分を摂ってほしいと要望した。

 さらに、緩和医療を受けている患者の栄養管理にも触れた。この時点では、最後まで「食べる」という希望を支える栄養療法となる。具体的には、食べやすくするための食事内容を調整し、面談や聞き取りを通じて患者の思いを引き出し、一人ひとりの望むことは何かを共に考えながら、栄養管理に臨んでいるという。

 現実問題として、末期がん患者の食事メニューは難しい面もあるが、梶原さんはその点を踏まえた上で、少量で高エネルギー、高タンパク質が摂れ、家庭でも簡単に調理できるいくつかのレシピを提案するとともに、食事からだけでは摂りにくいビタミンやミネラルを補う栄養補助食品についても紹介した。

嘔吐がある場合には

 がん治療中の患者は、副作用によって食事摂取量が減ってしまうことが少なくない。中でも影響が大きいのは吐き気や嘔吐だ。嘔吐が続くと、食べた栄養分や消化液、ナトリウムやカリウムなどの電解質が失われる。また、吐き気のため食べられず、食事の摂取量が減る。さらに、嘔吐した苦しい経験や不安によって心理的な負担が増す。梶原さんは、このように吐き気・嘔吐がある場合の食事の工夫として、①量を控えめに、小分けにして食べる、②消化・吸収のよい食品を食べる(脂肪と繊維の少ないもの)、③冷ます、臭みを消すなどして臭いを抑える、④さっぱりと口当たりのよいメニューにする――などをアドバイスした。

 抗がん薬治療や放射線治療による口内炎(口腔粘膜障害)も、食事を阻害する要因になる。そうしたケースでは、水分が多く、滑らかなメニューにしたり(口当たりを良くするスープ、煮込みシチューやグラタン、あんかけ料理など)、刺激物(唐辛子、ワサビ、カレー、酸っぱい・甘すぎる・熱すぎる・冷たすぎるもの)を避けるといった工夫をする必要があるという。

 梶原さんはさらに、味覚障害、便秘・下痢あった場合などの食事の工夫について説明した上で、最後に「食べることは生きること。食べることが辛(つら)くないように、これからも食事のサポートをしていきたい」と語った。取材・文●「がんサポート」編集部

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