「ウィッグリング・ジャパン」-医療用ウィッグのリユースにとどまらず、がん患者さんの社会復帰を支援

鈴木恵さん
ウィッグリング・ジャパン 鈴木恵さん

2024.5 取材・文 がん+編集部

 ウィッグリング・ジャパンは、福岡を拠点に活動する団体です。がん治療を終えた患者さんから医療用ウィッグを寄付という形で収集してメンテナンス、リユース(レンタルまたは販売)する取り組みを2010年から開始。ウィッグリユースの取り組みから見えてきた課題を解決するため、2023年からは新たに情報発信サイトを立ち上げました。活動について、事務局の鈴木恵さんに伺いました。

5,000個以上の医療用ウィッグ寄付、新たに必要な方へ届ける

 ウィッグリング・ジャパンは、代表の上田あい子が2009年に立ち上げました。これからがん治療を受けるという友人から不安を打ち明けられ、少しでもその不安を軽減するためにできることはないかと知人と話し合い、外見のケア(ウィッグ)の支援についてなら何かできるのではないかと思いついたことが始まりだったそうです。

イベント
2024年4月、リンパ浮腫をテーマにしたセミナー

 がん治療にかかる費用だけでも負担が大きいのに、医療用ウィッグも高額。近年は、医療用ウィッグの購入を助成する自治体は増えてきていますが、活動開始当初は自費購入が中心でした。そこで購入するより低価格の設定でのレンタルという形でスタート。当初1年間は無償提供。2022年までに約5,000個のウィッグが寄付され、1,000人以上に届けています。

 ウィッグリユースのほか、初期から活動を支援していただいている久留米大学先端癌治療研究センター、同大医学部の先生方の協力を得て医療セミナー(2020年からオンラインと対面形式のハイブリッド開催)や、少人数制の相談会「がんカフェ」(福岡市内)、がん経験者さん同士の座談会なども開催。医療用ウィッグ支援以外のところでも、がん患者さんと多くの接点を持ってきました。

がん患者さんを支援したい美容サロン向けのプログラム

フィッティング
フィッティングの様子

 医療用ウィッグ支援の利用者の多くはがんに罹患された女性患者さんですが、がん患者さんではない、薄毛にお悩みの方にもご利用いただいています。福岡市内にはフィッティング用サロンがあり、そこでは、がん経験者のスタッフやピアサポーターがフィッティングを担当しています。病気に関する相談や日常生活の悩みなどに寄り添い、心のケアにも取り組んでいます。

 一方、医療用ウィッグについては、地域の美容室と「パートナーサロン」という形で連携しての支援も開始。患者さんの脱毛・発毛に合わせて地毛やウィッグのカット、メンテナンスをしています。

 美容師さんもがんに関する正しい知識を持って患者さんと接していただけるように、私たちの団体理事であり久留米大学先端癌治療研究センターの山田亮先生を中心に団体独自の「がんサポーター養成講座」をつくりあげ、オンラインなどで受講可能になっています。時折、リアルの交流会も全国各地で開催して、サロンさん同士も情報交換しています。

美容・医療・患者さんをつなぐ新たなウェブサイト立ち上げ

 これまでの活動を通じて、がん患者さんからは「爪や脱毛など外見美容について安心して相談できる場所がないことが不安」といった声を多くいただきました。また、医療機関からの美容に関する情報提供は乏しく、美容サロン側は、「がん患者さんへの対応スキルをたとえ持っていたとしても、患者さんに知らせる手段がない」といった現実があることもわかってきました。代表の上田は元々医療情報を扱うテレビ番組制作に携わってきた経験があり、情報発信に関するスキルを持っています。そこで、美容サロン情報とがん患者さんをマッチングできるサービスを提供しようと、2023年秋にウェブサイト「 Cheers Beauty(チアーズビューティー)」 を立ち上げました。

 美容サロン情報は全国で約50店舗(2024年5月現在)を掲載。サロン情報だけでなく、医師や専門の方に取材したがん患者さんのQOLや治療に関わる医療情報も掲載しています。また、サイトの情報を紙媒体にまとめ直したものを、全国のがん診療連携拠点病院などでも配布しています。

がん患者さんの生活に関する悩みをこれからもサポート

 医療用ウィッグサービスの利用者からは、「自信を取り戻せた」という声がとても多く寄せられます。また、医療セミナーの参加者からは「セミナーもよかったけど、セミナー後の質疑応答で直接先生に相談できたことで悩みが軽減した」といった声も聞かれます。なかなか素朴な疑問をぶつける場がなく、困っていらっしゃったという参加者は多いようです。さらに、交流会に参加されたパートナーサロンさんからは、「志が同じ方々と一緒に学んだり情報共有したりする貴重な機会になっている、ありがたい」といった声をいただきます。こうした声から課題を見つけ、これからも私たちはがん患者さんの支援を続けていきたいと思っています。

 医療用ウィッグのサービスは今後も継続していきますが、仕事とがん治療を両立する患者さんが増えてきている時代では、外見ケアにとどまらず生活に関する情報はこれからも求められるものではないかと考えています。ですので、今後はより「Cheers Beauty」での情報発信、連携可能なパートナーサロンを増やしていくことに、力を入れていきたいと思っています。

NPO法人ウィッグリング・ジャパン 外部リンク

がん種 全般
地域 全国(拠点は福岡県)
連絡先 メール japan@wig-ring.info
活動内容 医療用ウィッグの販売・レンタル、医療セミナーの開催のほか、美容と医療に関する患者向け情報サイト「Cheers Beauty」の運営。美容サロン向けに団体独自の「がんサポーター養成講座」「アピアランスケア講習会」(オンライン受講可)の運営なども行っています。