「E-BeC(エンパワリング ブレストキャンサー)」乳がん患者さんの「乳房再建」への正しい理解を広めたい

真水美佳さん
NPO法人E-BeC理事長 真水美佳さん

2023.6 取材・文 がんプラス編集部

 NPO法人E-BeC(エンパワリング ブレストキャンサー)(以下E-BeC)の理事長・真水美佳さんは2008年に乳がんに罹患されました。乳房再建を前提とした治療を希望しましたが、乳房再建に関する正確な情報の少なさ、認知度の低さを痛感。そうした経験から、乳房再建に関する正しい情報へスムーズにアクセスでき、乳がん患者さんのQOL(生活の質)の向上に貢献したいと自らが発起人となりE-BeCを立ち上げました。これまでの取り組み、これからについて、お話をうかがいました。

2008年に自家組織を用いて乳房同時再建、治療情報の少なさに愕然

 私は、2008年に両側乳がんと診断されました。左は温存、右は全摘で、私自身のおなかの脂肪を使って同時に再建しました。その後、1年間のホルモン療法を受け、ここまでの約15年間は再発なく過ごせています。

 がん発覚時に提案された治療法は手術でした。どうしても胸を切除して失いたくなかったので、手術以外の治療法は選択できないのか、当時の主治医に相談しました。すると、「うちでは乳房再建はやっていないので、もし再建を希望するなら自分で納得のいく病院を探してください。紹介状はいくらでも書きますよ」と言われました。この時に乳房再建手術があることを初めて知りました。

 その後、自分で実際に病院探しを開始。タイミングよく、自家組織による乳房同時再建を行っている大学病院の形成外科を受診することができ、治療開始に向けて進み始めました。人工物(シリコン製の乳房インプラント)を使って再建する方法も当時からありましたが、インプラントを入れることに抵抗があったのと、人工物を使用しての再建は保険適用ではなかったため、自家組織手術を受けました。診断から手術に至るまで約3か月かかったのですが、自分の納得できる治療法にたどりつくことができました。

 いざ手術に向けて準備が始まったのですが、術式に関する説明は、難しい言葉がいっぱいの資料。「穿通枝皮弁法」(せんつうしひべんほう)は、私の人生で初めて出てきた言葉で、読み方もわかりませんでした。それまでの3か月でもいろいろな初めてのわからないことが多すぎて、がん治療ってこんなに大変なのかと思い知らされました。

 このような経験から、乳がんと宣告され混乱の渦中にいる方や手術によって乳房を失い喪失感にとらわれている方に、「乳房再建手術について正しく知ってもらい、希望と自信をもって生きていくきっかけを提供する」ことを目的としたE-BeCを立ち上げました。

セミナーや調査などを通じて、乳房再建の実情や正しい理解を広めたい

 E-BeCの主な活動は、セミナー・相談会の開催、アンケート調査、専門医監修の「乳房再建手術ハンドブック」の発行です。

セミナー
過去のセミナーの様子

 セミナーは、新型コロナ流行以前は実地開催が主でしたが、現在はオンラインを中心に行っています。日本各地の専門医を招いて、最新情報を交えて講演していただいています。相談会は、月に1度「Zoom&リアルで乳房再建ミーティング」を開催しています。これは、これから乳がん手術・乳房再建を受ける予定のある患者さんのお悩みに、乳房再建の経験者が応じるというスタイルで行っています。

 アンケートは、毎年「乳房再建に関するアンケート調査」を行っています。2022年度は300人から回答をいただきました。乳房再建を検討する当事者の意思決定プロセスに影響を与えるさまざまな課題が浮き彫りになったと思います。

 また、乳房再建手術について詳しく紹介したハンドブックは、専門医監修のもと、乳がん手術後の傷やお肌のケア、乳房再建手術の術式の解説、術後の生活に役立つ情報をまとめています。これを手に取る患者さんが治療中だったり、不安になったり、気が動転していて文字が読みにくいといったことがあるのではないかと考えて、なるべくシンプルにわかりやすくイラストを多めに配しています。

「私一人じゃないとわかって、ものすごく安心した」の声

 参加者からは、「家族には自分の本当の気持ちを伝えられない」「私一人じゃないとわかって、ものすごく安心した」といった声がよく聞かれます。孤独を感じておられる患者さんは多いと思います。実地開催の相談会などでは、例えば、インプラントによる乳房再建経験者がご自身の体験を話しながら、インプラントが入った胸を見せて、相談者がその胸に触れて感触を確かめる、といったシーンもあるのですが、「自分もこうなれるんだ」と、涙される方もいらっしゃいます。

対面コミュニケーションから生まれる安心感、正しい情報発信を大切に

 オンライン開催が浸透してきたことで、全国の方が参加しやすくなったというメリットがある一方、実地開催で隣り合った人とのコミュニケーションから生まれる安心感、みたいなものが得られにくくなってしまったことがあると思っています。コロナ流行が落ち着いてきたので、これからは対面での企画を充実させていきたいと思っています。

 また、「乳房再建」の情報を検索してよく読まれているのが、個人の方の体験談が書かれたブログである、ということもよく聞きます。全てがとは言いませんが、中には偏ったことが書かれていて、不安になってしまう方もいらっしゃいます。ですので、どのような情報発信をしていけば最初にE-BeCにたどり着いてもらえるのか、という課題も解決していきたいと思っています。私たちは、いつの情報で、何に基づいて書いているのか、正しいのかを大切に情報発信し続けます。そのことが、乳房再建を考える乳がん患者さんが前向きに治療に臨まれることにつながれば、それは本望ですね。

NPO法人E-BeC(エンパワリング ブレストキャンサー) 外部リンク

主ながん種
乳がん(乳房再建)
地域
全国
連絡先
https://www.e-bec.com/contact
活動内容
乳房再建を検討する乳がん患者さんを支援する団体です。乳房再建に関する調査・研究・啓発事業を通じて、乳がん患者さんのQOL(生活の質)の向上に寄与することを目的としています。