「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」中皮腫でも明るく生きていこう、患者同士だから分かりあえること

栗田英司さん
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 関東支部 中皮腫相談担当 栗田英司さん

2018.2 取材・文 がん+編集部

 中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の栗田英司さんは、1999年に中皮腫と診断されました。さまざまな葛藤から会と距離を置いた時期もありましたが、「患者同士だから分かりあえることがある」と考え、ピアサポート活動を開始。全国の患者さんと触れあうなかで感じていること、これからの活動についてお話をうかがいました。

患者さんのケアだけでなく労災や法律の手続きもサポート

 アスベスト(石綿)が発症の原因である中皮腫。アスベストを扱う労働者だけでなく、アスベスト関連の工場などの周辺住民でも発症することがあり、近年は、アスベストを使用する建物の解体問題などもあります。

 中皮腫など、アスベスト関連疾患の患者さんのケアを目的に2004年に設立したのが、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会です。患者さんやその家族の交流の場を提供することや、労働者に対しては労災保険、非労働者には石綿健康被害救済法の申請のお手伝いなどを主な活動としています。

周りの患者さんが亡くなるなか、自分が生き続けることで葛藤を感じたことも

 私は、1999年に中皮腫と診断され、18年ほど経ちました。患者さんのなかでは長期生存者に入ります。中皮腫は希少がんで、早期発見が難しく、予後が悪いといわれています。そのため、患者会にきた患者さんはすぐに亡くなってしまう人も少なくありません。私は、会が設立されてすぐに入会し、最初の2~3年ほどは活動に参加していましたが、その後しばらく会に参加しなくなりました。中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の会員は約900名いますが、中皮腫患者さんは50名ほどで、多くが患者さんの家族や遺族というのが現状です。そのような状況を目の当たりにして、生きている自分に対して葛藤することもあり、「ここは自分の居場所ではない」と感じてしまったのだと思います。

 でも、「そんな私だからこそ、患者さんに何かできることがあるのでは?」「患者同士でないと分かり合えないことがある」と思うようになり、自ら会に提案をして、全国の患者さんへのピアサポート活動を始めました。

患者さんの“やりきれなさ”を受け止め、未来につながる活動を

 ピアサポート活動では、中皮腫サポートキャラバン隊として全国で講演会や相談会を行っています。体調が優れないなどの理由で参加できない患者さんには、直接ご自宅や病院へうかがい、お話を聞くこともあります。活動を通じて、患者さんからはさまざまな声があがってきました。例えば、医療的な閉塞感を感じている患者さんは多いです。中皮腫には治療の選択肢が限られているため、「これ以上、治療のやりようがない」という声も多く聞きます。また、患者さんはアスベストによる公害被害者という認識も強いので、“やりきれなさ”も伝わってきます。

 そんな状況だからこそ、私は患者さんたちに「中皮腫患者でも明るく生きていこう」というメッセージを伝えています。笑っても泣いても同じ1年だったら、笑って過ごしたほうが良いと思うからです。ですが、それを伝えるだけでは足りないとも感じています。患者さんの未来につながる活動をしようと思い、中皮腫サポートキャラバン隊としてさまざまな活動方針を立てました。長期生存している患者さんや元気な患者さんの経験を体験記としてまとめたり、治療の選択肢を増やすための要望を国に訴えたり、などです。例えば、ニボルマブ(製品名:オプジーボ)の早期承認の要望書を厚生労働大臣宛てに、日本肺癌学会、日本肺がん患者連絡会と連名で提出するといったことも行いました。

多くの人々に知ってほしい、アスベスト問題や中皮腫のこと

 私たちが感じている課題は、中皮腫などのアスベスト関連の疾患やアスベストの問題を知らない人が多いということです。もう終わったこと、というイメージが強いからだと思います。でも、現実は違います。2016年には1550人の中皮腫患者が亡くなっていますが、2030年ころまで増加し続けるという推計もあります。さらに、解体された建物から飛散するアスベストに暴露し被害がさらに広がる問題もありますし、この状況を多くの人に知ってもらいたいです。

 また、希少がんであることから、医療従事者に対しての中皮腫の認知も大切だと考えています。患者さんのなかには、中皮腫と診断がつくまでに2年ほどかかった人もいます。ある患者さんは、肺がんと診断され、治療を受けていたけれどなかなか良くならず、治験に参加するために再度診断を受けたら中皮腫だとわかったそうです。中皮腫と診断された後、労災保険や石綿健康被害救済法のことを教えてもらえない患者さんもいます。ソーシャルワーカーにこのような制度があることを知ってもらい、患者さんに伝えてもらうことも必要です。患者さんや家族のケアはもちろんですが、このような現状を改善するために、私たちはこれからも情報を発信し続けたいと思います。

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 外部リンク

がん種
中皮腫などのアスベスト関連疾患
地域
全国
連絡先
TEL 0120-117-554
FAX 03-3683-9766
活動内容
中皮腫など、アスベスト関連疾患の患者さんやその家族の交流の場を提供している患者会です。また、労働者に対しては労災保険、非労働者には石綿健康被害救済法の申請のお手伝いなどを主な活動としています。