「がんと暮らしを考える会」がん患者さんの暮らしの困りごとを解決する支援

賢見卓也さん
NPO法人がんと暮らしを考える会理事長 賢見卓也さん

2018.7 取材・文 大場真代

 がんと暮らしを考える会は、お金や仕事といったがん患者さんの暮らしに関する困りごとについて、専門家が一緒に考え問題解決を目指すことで患者さんを支援するNPO法人です。看護師としても患者さんに関わる理事長の賢見卓也さんに、活動についてうかがいました。

がんのお金に関する制度をまとめて検索できる「がん制度ドック」

 がんと暮らしを考える会は、医療従事者、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(FP)といった多職種ががんに関わるお金のことを学習する場として、2011年に発足しました。私は看護師として、在宅緩和ケアの訪問看護ステーションに勤務していました。患者さんと接するなかで、がんを患ってから使える公的な制度や民間のがん保険、生命保険といったお金のことについて、相談されることもありました。しかし、医療従事者の立場ではわからないことが多いと感じていました。

がん制度ドック
がん制度ドックWEBサイトより

 また、「体力的に仕事を続けるのが難しいけど、経済的な問題から仕事を辞められない」「治療に専念したいと思っているけど、住宅ローンの支払いなどもあり経済的な問題に直面している」など、患者さんが経済的な問題に直面する機会を多く見てきました。安心して治療を受けるためにも、多くの患者さんがさまざまな制度を活用できるようになってほしいとの思いから、2013年にがんと暮らしを考える会をNPO法人化。私たちが勉強した制度を、患者さんや家族などが簡単に検索できるように、WEBサービス「がん制度ドック」を立ち上げました。

 最近では、がんの治療が長期化している傾向があり、それにともなって患者さんや家族に与える経済的な影響も大きくなっています。がんと診断されてから利用できる制度は、医療に関連した公的な制度だけでなく、民間の生命保険やがん保険、住宅ローンなども含まれます。例えば、がんと診断された直後はがん保険で診断一時金を、初期の治療費が必要なときはがん保険で入院給付金などを利用でき、治療に伴う休業で収入低下の場合は傷病手当金が受給されます。最近では、がんと診断された際に支払いが免除される住宅ローンなどもあります。また、多くの生命保険にはリビング・ニーズ特約が付加されており、余命6か月以内の診断を受けた際に、死亡保険金の一部、もしくは全部を生前に受け取ることができます。

 このように、がん患者さんを対象とした制度にはさまざまなものがあります。しかし、申請方法の複雑さや、そもそも患者さんが制度を利用できることを知らない場合もあり、申請までたどり着かないことも少なくありません。がん制度ドックでは、年齢やがんの部位、体調や加入している健康保険の種類などご自身の情報を入力していくことで、ご自身が利用できる可能性のある制度の一覧を見ることができます。どんな制度を利用できるかわからないという患者さんには、がん制度ドックで、ご自身が利用できる可能性のある制度を知っていただきたいです。

FPと社会保険労務士による個別相談

 また、私たちは、全国7つの医療施設でお金と仕事に関する個別の相談事業を行っています。個別相談は、家計にかかわる金融、税制、不動産、住宅ローン、保険、教育資金、年金制度などの専門家であるFPと、労働法と年金の専門家である社会保険労務士がペアになって相談を行っています。例えば、「治療中に仕事を休むとき、その間のローン返済はどうしたらいいか?」など、就労の問題と経済的な問題をセットで支援できるような体制を整えています。

 相談される患者さんは、40代と60代の方が多い傾向にあります。40代では乳がんの患者さんで復職に関する悩みを相談するケース、60代では肺がん患者さんで退職にともなうお金の悩みを相談するケースが多くあります。とくに今の60代の患者さんは、60歳で定年退職しても年金の受給は65歳からで、親が介護中で支援が必要な場合や、子どもが独立していない場合、住宅ローンが残っている場合など、退職した途端に経済的な困難に直面することが多くあります。こうした場合、年金の繰り上げ受給や傷病手当金の受給、障害年金への移行などさまざまな制度を活用し、乗り切る術を提案しています。

患者さんや家族が安心して暮らせるように支援

 がんの治療に関する技術が大きく進歩したことで、治療が長期間にわたる場合も多くなりました。がん患者さんの悩みは、がんと診断された直後だけでなく、その先も長く続きます。退職や休職に伴うお金の心配、治療費用の不安、そして万が一の場合、残された家族への備えなど、お金に関する悩みは多岐にわたります。

 がんと暮らしを考える会では今後、今以上に多くの専門家に参加していただき、より多くのがん患者さんへの支援を行っていきたいと考えています。また、社会が変化していくとともに、がん患者さんの困りごとも変わります。そこに丁寧に対応しながら、経済的問題を解消し、患者さんや家族が安心して暮らせるように支援をしていきます。

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活動内容 NPO法人がんと暮らしを考える会は、お金や仕事といったがん患者さんの暮らしに関する困りごとについて、専門家が一緒に考え問題解決を目指すことで患者さんを支援しています。