「日本希少がん患者会ネットワーク」全ての希少がん患者さんに治療を届けたい

眞島喜幸さん
一般社団法人日本希少がん患者会ネットワーク理事長 眞島喜幸さん

2018.11 取材・文 がん+編集部

 日本希少がん患者会ネットワーク(Rare Cancers Japan:RCJ)は、希少がん患者さんを支援する全国の患者会・支援団体等が連合した一般社団法人です。ご自身も膵臓がん、膵神経内分泌腫瘍、さらに中咽頭がんを経験され、NPO法人パンキャンジャパン理事長としても活動される、RCJ理事長の眞島喜幸さんにお話をうかがいました。

希少がん患者さんの環境を整えるために

 厚生労働省の「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会 報告書」によれば、希少がんは「概ね罹患率(発生率)人口 10 万人当たり6例未満」「数が少ないため診療・受療上の課題が他のがん種に比べて大きい」という2つの条件を満たしているがんのことを指します。その種類は200種類程度あるとされますが、各がん種一つひとつの患者数は少ないことから、臨床研究や治験が進みにくく、標準治療が確立されていない場合も多いという現状があります。

 私は、2006年からNPO法人パンキャンジャパンの理事長として、膵臓がん患者さんへの支援活動を行ってきました。設立は、妹を膵臓がんで亡くしたことがきっかけです。その後、私自身も膵臓がんを経験し、膵臓の全摘手術を受けました。

RJC

 私は、膵神経内分泌腫瘍の患者さんへの支援活動を通じて、その疾患だけでなく、全ての希少がん患者さんの環境を整える必要があると感じました。そこで、全国の同じ希少がんの患者会11団体で集まり、2017年8月に日本希少がん患者会ネットワークを立ち上げ、2018年2月に一般社団法人となりました。現在は、16団体が加盟しています。

 私たちの活動の最終目標は、「希少がんで亡くなる人がいない世界をつくる」ことです。そのために、専門医教育を含む専門施設の整備や、新しい治療法の開発など、希少がんの医療体制の改善に取り組み、希少がん患者さんとその家族が尊厳をもって安心して暮らせる社会の構築を目指していきます。

国立がんセンターとの連携で、希少がん研究の加速にも期待

 現在の主な活動は、加盟する希少がん患者会・支援団体の意見を取りまとめ、政策提言活動、希少がん研究の推進・治療法の開発、情報公開の推進、国内外の患者団体との連携、会員交流などが中心です。

協定
日本希少がん患者会ネットワーク
公式ウェブサイトより

 2018年8月23日には、国立がん研究センターと、希少がんの新規治療とゲノム医療を推進する「MASTER KEYプロジェクト」での連携協定を締結しました。MASTER KEYプロジェクトでは、主に希少がんの疾患登録研究と、薬の標的となる遺伝子変異があれば、がんの種類に関係なく参加できる臨床試験が行われます。疾患登録によって、希少がん患者さんの診療情報や、がん種ごとの遺伝子異常の情報、治療の効果など、さまざまな情報が構築されます。また、多くの臨床試験を実施することで、これまで治療の機会が限られていた希少がん患者さんに対して、臨床試験への参加を通じた多くの治療の機会を提供できるようになります。すでに希少がん患者さんの登録が始まっていて、現在までに約100名の患者さんが登録しています。これは、世界でも初めての取り組みで、希少がんの新しい治療法の開発が期待されます。

 現在、多くの希少がん患者さんにこのMASTER KEYプロジェクトを知ってもらうため、登録のために必要な条件などを分かりやすくまとめた患者さん向け冊子を準備しています。興味のある希少がん患者さんは、ぜひこの冊子をご覧いただければと思います。

希少がん患者560名対象の実態調査、「5年以内に診断がつかなかった」患者さんも

 私たちは、希少がん患者さんの声を集める活動も行っています。そのひとつが、希少がん患者さんを対象とした実態調査アンケートの実施です。2018年実施のアンケートでは、560名の希少がん患者さんからの回答が得られ、2018年10月に行われた第56回癌治療学会学術集会の「希少がん国際シンポジウム」で、その一部を発表しました。詳細な結果は、後日公式ウェブサイトで掲載予定です。

 今回の実態調査で明らかになったことのひとつに、希少がん患者さんの確定診断までの時間の長さがあります。なかには、「5年以内に診断がつかなかった」という患者さんもいました。正しく診断されないことで、正しい治療が行われていない希少がん患者さんが多くいるのではないかと予想されます。

 ある神経内分泌腫瘍の患者さんは、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)と診断され、長い間適切な治療を受けることができませんでした。このように希少がん患者さんのなかには、初期の段階で正しい診断がつかないために、標準治療を受けることができない方がいます。そしてなかには正しく診断がついたときには、すでに進行しており、治療の選択肢がなくなってきている方もいます。このような状況を多くの医療従事者にも知ってもらい、希少がん患者さんが、早い段階で正しい診断を受け、治療を受けられる体制をつくっていく必要があります。

医師による講演、患者交流を行う「希少がん患者サミット」も開催予定

 今後の大きな活動としては、2019年4月27日(土)に希少がん患者さんを対象とした「希少がん患者サミット」を国立がん研究センターで開催します。当日は、医師による講演や、患者さん同士の交流会などを予定しています。ぜひ、多くの方にご参加いただき、最新の情報を得ていただければと考えています。

 さまざまな種類のある希少がんでは、“メジャー”な希少がんと“マイナー”な希少がんがあります。メジャーな希少がんでは、学会があり専門医がいて、診療ガイドラインがあり、標準治療が確立されている場合もあります。一方で、マイナーな希少がんでは、学会がなく、標準治療が確立されていない状況があります。希少がんといっても、がん種ごとに状況はさまざまなのです。「希少がんで亡くなる人がいない世界をつくる」ために、がん種ごとの状況にあわせて、患者さんの環境改善を目指す支援をおこなっていきます。

一般社団法人日本希少がん患者会ネットワーク 外部リンク

がん種 希少がん
地域 全国
連絡先 mail  info@rarecancersjapan.org
活動内容 一般社団法人日本希少がん患者会ネットワークは、希少がん患者さんを支援する全国の患者会・支援団体等の連合団体です。国立がん研究センターの「MASTER KEYプロジェクト」と連携し、研究プロジェクトへの参加を呼びかけたり、製薬企業に患者の声を届けたり、患者さん向けアンケート調査の実施や交流会など幅広い活動を行っています。