「5years」病気を乗り越えた人や同じ病気の仲間と出会い、生きる希望を掴む場所

大久保淳一さん
日本最大級のがん患者支援団体5years(ファイブイヤーズ)理事長 大久保淳一さん

2019.1 取材・文 若山さおり

 がん患者支援団体5years(ファイブイヤーズ)は、がんを乗り越えた人たちが、自分の経験をもとに、困っている患者さんとその家族を支援する組織です。2015年に設立され、現在6,600名以上の方が登録されています(2019年1月時点)。その登録者数は、日本最大級ともいわれています。
5years理事長の大久保淳一さんに、活動を始めたきっかけや活動に対する思いをうかがいました。

自分と同じ「がん」を乗り越えた人に会いたい

 自分が初めてがんになったとき、病気のこと、治療法や副作用のこと、退院後の仕事や生活、家族のこと、すべてがわからないことだらけでした。がんという病気には悪いイメージしかなく、「たとえ命が助かったとしても、もとの生活には戻れないのでは」と否定的なことばかり頭に浮かび、不安と孤独に襲われました。がんを乗り越えて元気に社会に戻った人たちがいることを知りたい、自分と同じがんの治療を終えた人の経験談を聞きたい、当時の私はその2つを強く切望していました。

 生きるか死ぬかの闘病を乗り越え、幸いにも私は社会復帰を果たすことができました。かつてのように仕事ができる喜びとやりがいを感じる一方で、自分にしかできないことが他にあるのではないかと、私は「生かされている意味」を考えるようになりました。自分が治療中に感じていた不安や苦しみを、今も抱えて闘っている人がたくさんいる、そのことが頭から離れなくなりました。そこで、闘病中の私が切望していた「病気を乗り越えた人たちの情報」と「経験に基づく有益な情報」を患者さんに届ける仕組みを作ることを考えました。

大久保淳一さん

 どのような仕組みがよいか考えるにあたり、同じような目的で設立され、既に60万人もの登録者数(2019年1月時点)を誇る「ペイシェンツ・ライク・ミー」というアメリカの民間団体のトップの方に会いました。ペイシェンツ・ライク・ミーでは、自分と同じ病気で同じ治療を受けている人、さらに、年齢も性別も仕事も同じような人に出会うことができます。治療中の患者さんにとっては、病気を乗り越えた経験者の体験情報を得ることで、未来に希望を持つことができるでしょう。このような仕組みが日本にも必要だと私は強く思い、がん患者さんの社会復帰を支援する団体「5years」を設立し、がん経験者とがん患者さんやご家族が交流できるコミュニティサイトを開設しました。

「5years」は同じ病気と向き合う仲間に会える場所

 コミュニティサイト「5years」では、同じがんの経験者が見つけられるよう、病気情報、治療情報、リハビリ、現在の状況などのプロフィールを登録していただいています。不適切な投稿がないか常にチェックをしていますが、現在までに荒れるなどのトラブルはありません。

わたしたちの未来は、いつだって輝かしい。
5yearsウェブサイトイメージより

 1か月に1,000件以上の近況投稿があり、それに対して40,000件におよぶ「いいね」や「応援します」など共感のアクションが交わされています。患者さんやご家族が投稿した悩みや質問に多くの人が共感してくれる、それだけでとても心強いサポートになります。なかには、家族にも話せないようなことまで、「5years」では素直に話せるという方もいらっしゃいます。さらに、治療の副作用や後遺症との付き合い方、気持ちのコントロール方法など、さまざまな悩みや質問に、多くの仲間や経験者が答えてくれます。
「5years」に登録して仲間と出会えたことで、自分は一人じゃないと思えた、病気と闘う勇気がわいた、という声をたくさんいただいています。

ネット上でつながった仲間たちと直接会って喜びを分かち合う

 コミュニティサイト「5years」では、仲間や同士と出会い、ときに「あの人のように生きたい」と思うロールモデルに出会えることもあります。インターネットを通じてではなく、直接会いたいという声が大きくなり、ついに「マイヒーロー、マイヒロイン、マイフレンドに会おう!」をコンセプトにオフ会イベントを開催することにしました。このイベントは、2017年から年2回開催しています。
オフ会に参加された方々は、既にインターネット上で仲間・同士の絆を深めていらっしゃる方が多く、初めて会うとは思えないほどすぐに打ち解けることができました。なかには涙を流しながら肩を抱き合って会えた喜びを分かち合う方々もいらっしゃいました。

5years クリスマスオフ会の様子
5years クリスマスオフ会の様子

 このオフ会に来ていただいた方全員に、「5years」特製のクリスタルをプレゼントしています。このクリスタルには、がんになってからのそれぞれの年数が刻まれています。がんを乗り越えて歩んだ年月をお祝いし、これからの人生も希望を持って生きてほしい、そんな願いをクリスタルに込めています。これまでは東京と大阪で開催しましたが、そのほかの地域での開催を望む声も多くいただいています。「5years」は、インターネット上でつながった仲間同士が直接会う機会を大切にして、これからも活動を発展させていきます。

多くの人に伝えたい、未来はいつだって輝かしいということを

 コミュニティサイト「5years」に寄せられたがん経験者からの情報には、とても勇気づけられるものがたくさんあります。この情報を「5years」に登録されていない方々にも届けたいと考え、私は「ミリオンズ・ライフ(MillionsLIFE)」というサイトを立ち上げました。ここでは、がん経験者たちが病気を乗り越えて、元気に社会復帰したエピソードを実名・顔写真入りで多数ご紹介しています。5yearsに登録されているがん経験者の皆さんを私が取材・撮影し体験談をウェブ記事にしています。薬の副作用が出た時の対処法や、治療に対する不安に打ち勝つ方法などのほか、がんの治療にかかったお金の話まで、がん経験者たちの貴重な経験談がたくさんあります。これらは、患者さんやそのご家族だけでなく、さまざまな悩みや不安を抱えている人を、きっと勇気づけることでしょう。
私ががんを患って初めて気が付いた「人生は何回だってやり直せる、未来はいつだって輝かしい」ということを、「ミリオンズ・ライフ(MillionsLIFE)」の活動を通じて、ひとりでも多くの人に伝えたいと思っています。

がんになっても人生は終わりではないことを社会に示そう

 コミュニティサイト「5years」の登録者数は、設立からわずか4年で6,600人を超えました。情報が欲しいと思っている方はもちろん、自分の持っている情報を提供することで誰かの役に立ちたいと思って登録される方もたくさんいらっしゃいます。「5years」は、自分の経験談や持っている情報を出し合うことで、互いに必要としている情報が手に入りやすくなる相互支え合いのコミュニティです。登録してくださる方が増え、提供される情報が増えれば増えるほど、「5years」は多くの人にとって役に立つ場所となります。ぜひ、ご登録ください。

大久保淳一さん

 私たち「5years」の活動の目指すところは、がんになっても人生は終わりではない、ということを社会に示すことです。日本では、がんという病気がタブー視されていて、「私はがん患者です」と周りに伝えることができない人がたくさんいます。病気と闘うだけでも大変なのに、その病気を隠さなければならないということは、とてもつらいことです。このような社会的な状況を変えたいのです。がんを乗り越えて社会復帰した方はたくさんいらっしゃいます。現在、がんと闘いながら、自分らしく生きている方もたくさんいらっしゃいます。その事実を、いま困っている患者さんやご家族に伝え、ひとりでも多くのがん患者さんのこころを救い、社会復帰を後押ししたいと思っています。

日本最大級のがん経験者コミュニティ5years(ファイブイヤーズ) 外部リンク

がん種 全般
地域 全国
連絡先 mail  info@5years.org
活動内容 「5years(ファイブイヤーズ)」は、がん患者さんやご家族、がん経験者が互いに情報を出し合うコミュニティサイトです。困っている患者さんの質問や悩みに経験者たちがアドバイスしてくれたり、同じ病気の人に出会えたりすることができます。インターネット上でつながった仲間たちと直接会えるオフ会も実施しています。