食道がんの治療

食道がんのステージ分類に応じた治療法を紹介します。

食道がんの内視鏡的切除術

食道がんの内視鏡的切除術には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)があります。

内視鏡的切除術が適応となるのは、壁深達度が粘膜層(T1a)のうち,粘膜上皮(EP)や粘膜固有層(LPM)にとどまる場合です。また、壁深達度が粘膜筋板(MM)に達していても病変が食道の全周に広がっていない場合は、内視鏡的切除術を受けることが可能です。しかし、病変が4分の3周以上に広がっている場合は、食道の狭窄が内視鏡的切除術の治療後に起こる可能性があるため、予防治療が追加されます。粘膜下層(T1b)に浸潤していた場合、50%程度で転移が見られるため、進行がんに準じて治療が行われます。

内視鏡的切除後の追加治療
内視鏡的切除後の追加治療
出典:日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2022年版. cStage 0,Ⅰ食道癌治療のアルゴリズムより作成

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、生理食塩水などを粘膜下層に注入して病変を浮き上がらせ、その病変に、内視鏡の先端から出したスネアという輪状のワイヤーを引っかけて締め、高周波電流を流して焼き切る方法です。

内視鏡的切除後の追加治療

内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)

内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は、生理食塩水などを粘膜下層に注入して病変を浮き上がらせた後、病変の周囲を電気メスで浅く切りマーキングし、このマーキングに従い専用のナイフで病変部分と粘膜下層を高周波電流で焼きながら剥離する方法です。

内視鏡的切除後の追加治療

食道がんの手術

食道がんの手術では、がんが発生した部位(頸部、胸部、腹部)によって治療選択が異なります。

頸部食道がんの手術

頸部食道がんでは、咽頭を一緒に切除する合併手術「咽頭合併切除術」が必要な場合が多くあります。咽頭を切除すると声が出なくなるためQOLが低下します。咽頭を温存する「咽頭温存手術」では、声の消失はなくなりますが、誤嚥や肺炎が起こる可能性があるため十分な配慮が必要になります。

咽頭合併切除術は、腫瘍が咽頭、喉頭、気管に浸潤している場合や、切除後に腸管とつなぐために必要な頸部食道が十分残っていない場合に適応となり、咽頭温存手術は、咽頭、喉頭、気管への病変の浸潤がない場合に適応となります。

頸部食道がんでは、腹部にあるリンパ節への転移の可能性は低い一方で、上縦隔リンパ節※に転移することが多くあるため、リンパ節郭清の検討が慎重に行われます。

※左右の肺と胸椎、胸骨に囲まれた部分で気管が左右にわかれる場所から上部にあるリンパ節。

胸部食道がんの手術

胸部食道がんでは、頸部、胸部、腹部の広範囲にリンパ節転移が見られることが多くあります。そのため、胸部食道を全摘し、頸部、胸部、腹部のリンパ節を含めて切除することが一般的です。また、従来の右開胸開腹手術に加え、胸腔鏡下手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術、縦隔鏡下手術などが行われるようになってきていますが、有効性や安全性に関しては、まだ検証段階となっています。

食道胃接合部がんの手術

食道胃接合部がんは、頸部・縦隔・上腹部、腹部大動脈の周囲まで、広範囲にリンパ節転移が認められることがあります。食道への病変の広がりによって、縦隔リンパ節への転移の頻度が異なります。2cm以下(特に1cm以下)では、縦隔リンパ節への転移頻度は低いこと、2.1cm~4.0cmでは、下縦隔の転移頻度は高く上・中縦隔リンパ節への転移は低いこと、4cmを超えると上・中縦隔リンパ節への転移が高率になることが、日本胃癌学会と日本食道癌学会による研究でわかっています。そのため、リンパ節郭清範囲に応じて、食道および胃の切除範囲が検討されます。

食道胃接合部がんに対する手術アプローチとリンパ節郭清のアルゴリズム
内視鏡的切除後の追加治療
出典:日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2022年版.V外科治療 図1食道胃接合部癌に対する手術アプローチとリンパ節郭清のアルゴリズムより作成

リンパ節番号とリンパ節名称

リンパ節番号リンパ節名称
腹部リンパ節
1右噴門部リンパ節
2左噴門部リンパ節
3a小彎リンパ節(左胃動脈に沿う)
3b小彎リンパ節(右胃動脈に沿う)
4sa大彎リンパ節左群(短胃動脈
4sb大彎リンパ節左群(左胃大網動脈に沿う)
4d大彎リンパ節右群(右胃大網動脈に沿う)
5幽門上リンパ節
6幽門下リンパ節
7左胃動脈幹リンパ節
8a総肝動脈幹前上部リンパ節
8q総肝動脈幹後部リンパ節
9腹腔動脈周囲リンパ節
10脾門リンパ節
11p脾動脈幹近位リンパ節
11d脾動脈幹遠位リンパ節
12肝十二指腸靱帯内リンパ節
13膵頭後部リンパ節
14A上腸間膜動脈に沿うリンパ節
14V上腸間膜静脈に沿うリンパ節
15中結腸動脈周囲リンパ節
16a1腹部大動脈周囲リンパ節a1
16a2腹部大動脈周囲リンパ節a2
16b1腹部大動脈周囲リンパ節b1
16b2腹部大動脈周囲リンパ節b2
17膵頭前部リンパ節
18下膵リンパ節
19横隔下リンパ節
20食道裂孔部リンパ節
頸部リンパ節
100頸部の浅在性リンパ節
100spf浅頸リンパ節
100sm顎下リンパ節
100tr頸部気管前リンパ節
100ac副神経リンパ節
101頸部食道傍リンパ節
102深頸リンパ節
102up上深頸リンパ節
102mid中深頸リンパ節
103咽頭周囲リンパ節
104鎖骨上リンパ節
胸部リンパ節
105胸部上部食道傍リンパ節
106胸部気管リンパ節
106recR反回神経リンパ節(右側)
106recL反回神経リンパ節(左側)
106pre気管前リンパ節
106tb気管気管支リンパ節
106tbR気管気管支リンパ節(右側)
106tbL気管気管支リンパ節(左側)
107気管分岐部リンパ節
108胸部中部食道傍リンパ節
109主気管支下リンパ節
109R主気管支下リンパ節(右側)
109L主気管支下リンパ節(左側)
110胸部下部食道傍リンパ節
111横隔上リンパ節
112後縦隔リンパ節
112aoA腹側胸部大動脈周囲リンパ節
112aoP背側胸部大動脈周囲リンパ節
112pul肺間膜リンパ節
113動脈管索リンパ節
114前縦隔リンパ節

出典:日本食道学会編 臨床・病理 食道癌取扱い規約2022年9月 第12版.3リンパ節転移の記載.表1-5リンパ節部位の番号と名称より作成

食道がんの放射線治療

食道がんの根治を目的とした放射線治療は、化学療法と同時併用する「化学放射線治療」が推奨されています。根治切除手術ができない場合は、健康状態に応じて、化学放射線治療または放射線単独治療が選択されます。また、腫瘍により食道の通過障害があるステージ4bでは、緩和的放射線治療が検討されます。

化学放射線治療

化学放射線治療は、化学療法と放射線治療を同時に行う治療法です。手術以外の治療では、根治を目指した治療として、化学放射線治療はステージ0~4aが適応となります。ステージ4bで食道に通過障害がある場合には、化学放射線治療が検討されます。

ステージ0、1に対する化学放射線治療

4分の3周以上の周在性があり内視鏡的治療が困難で、粘膜下層より浸潤している場合に適応となります。

ステージ2、3に対する化学放射線治療

ステージ2、3で、術前化学療法+手術が行えない場合(手術の拒否を含む)に、根治が期待できる治療として推奨されています。

ステージ4aに対する化学放射線治療

手術で切除不能なステージ4aでも、放射線の照射範囲内に病変が限局する場合には、化学放射線療法が標準治療となります。

化学放射線治療の臨床試験のまとめ

試験名ステージ
組織型
レジメン放射線量完全奏効
割合
生存期間
(割合)
JCOG502ステージ
1b
5-FU700mg/m2
1~4、29~32
60Gy87.3%5年生存
85.5%
扁平上皮がんシスプラチン70mg/m2
1、29
RTOG85-01ステージ
1、2、3
放射線治療単独64Gy記載なし5年生存率
0%
扁平上皮がん
腺がん
5-FU1000mg/m2
1~4、29~32
50.4Gy5年生存率
26%
シスプラチン75mg/m2
1、29
RTOG94-05ステージ
1、2、3
5-FU1000mg/m2
1~4、29~32
50.4Gy記載なし2年生存率
31%
シスプラチン75mg/m2
1、29
扁平上皮がん
腺がん
5-FU1000mg/m2
1~4、29~32
64.8Gy2年生存率
40%
シスプラチン75mg/m2
1、29
JCOG9909ステージ
2、3
5-FU1000mg/m2
1~4、29~32
50.4Gy59.0%3年生存率
74.2%
扁平上皮がんシスプラチン75mg/m2
1、29
JCOG9516切除不能局所5-FU700mg/m2
1~4、29~32
60Gy15.0%2年生存率
31.5%
扁平上皮がんシスプラチン70mg/m2
1、29
JCOG0303切除不能局所5-FU700mg/m2
1~4、29~32
60Gy0.0%1年生存率
55.9%
シスプラチン70mg/m2
1、29
扁平上皮がん5-FU200mg/m2
週5×6週間
1.4%1年生存率
56.3%
シスプラチン4mg/m2
週5×6週間
KROSG0101/
JROSG021
ステージ
2~4A
5-FU700mg/m2
1~4、29~42
60Gy記載なし2年生存率
46%
シスプラチン70mg/m2
1~5、8~12、29~33、36~40
局所扁平上皮がん5-FU700mg/m2
毎週初日×5日間
60Gy2年生存率
44%
シスプラチン4mg/m2 後照射
KDOG0501切除不能局所
扁平上皮がん
5-FU400mg/m2
1~5、15~19、29~33
61.2GY42.1%1年生存率
63.2%
シスプラチン40mg/m2
1、15、29
ドセタキセル20~40mg/m2
1、15、29

出典:日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2022年版 第VI章化学療法・放射線療法 表1化学放射線療法前向き臨床試験のまとめより作成

緩和的放射線治療

緩和的放射線治療は、根治を目的とせず、がんによる痛みや食道の狭窄によるQOLの低下を緩和する目的で行われます。

食道がんの化学療法

食道がんの化学療法は、放射線治療と同時に行う化学療法(化学放射線治療)、術前化学療法、術後化学療法、切除不能または再発食道がんに対する化学療法があります。

術前化学療法

術前補助化学療法は、切除手術の前に行われる化学療法です。手術前のCT検査などで、がんが深く浸潤している場合や、近くのリンパ節へ転移があるような場合に行われます。目に見えない微少ながんに対する再発予防のほか、切除が難しいがんを小さくして切除しやすくする目的もあります。

シスプラチン+5-FU併用療法(CF療法)が標準治療とされていました。しかし、術前化学療法としてCF療法、シスプラチン+5-FU+ドセタキセル併用療法(DCF療法)、シスプラチン+5-FU併用療法+放射線治療(CF+RT療法)の3つを比較したJCOG1109 試験ではDCF療法はCF療法と比較して、全生存期間の延長が認められ新たな標準治療となる根拠が示されました。

CF療法の補助化学療法の術前と術後を比較したJCOG9907試験では、術前化学療法の全生存期間が長かったという報告があり、ステージ2、3に対して手術を中心とした治療を行う場合は、術前化学療法を行うことが強く推奨されています。

術後化学療法

切除不能進行・再発食道がんに対する化学療法は、一次~三次治療まであります。一次治療では、5-FU+シスプラチン+ペムブロリズマブ併用療法が推奨されています。5-FU+シスプラチン+ニボルマブ併用療法、もしくはイピリムマブ+ニボルマブ併用療法も推奨されていますが、患者さんの全身状態、PD-L1発現状況、忍容性が考慮されます。従来の標準治療であったまた、5-FU+シスプラチン併用療法も選択肢の1つとされています。

一次治療でペムブロリズマブもしくはニボルマブの治療歴がある場合は、二次治療としてパクリタキセルが選択されます。イピリムマブ+ニボルマブ併用療法後の二次治療では、パクリタキセルまたは5-FU+シスプラチン併用療法が選択されます。

一次治療で5-FU+シスプラチン併用療法による治療を受けた場合の二次治療では、ニボルマブが強い推奨、ペムブロリズマブが弱い推奨とされています。

一次治療、二次治療ともにパクリタキセルよる治療を受けていない場合は、三次治療としてパクリタキセルが選択されます。

ステージ4B食道がんに対する化学療法レジメン
ステージ4B食道がんに対する化学療法レジメン
出典:日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2022年版 第III章cStageIVB食道癌に対する化学療法レジメンより作成

参考文献
日本食道学会編 食道癌診療ガイドライン2022年版.金原出版
日本食道学会編 臨床・病理 食道癌取扱い規約2022年9月 第12版.金原出版

最新のがん医療情報をお届けします。

無料で 会員登録
会員の方はこちら ログイン