【がんプラス5周年×CaNoW】脳腫瘍の患者さんと家族が叶えた「貸し切り水族館満喫プラン」
取材・文:がん+編集部
がんプラスはサイトオープン5周年を記念し、グループ会社であるエムスリー株式会社が展開する「CaNoW(カナウ)」と共に、がん患者さん・ご家族の願いを叶えるイベントを開催。悪性脳腫瘍の1つ、退形成性上衣腫(たいけいせいせいじょういしゅ)の患者さんの池田大空(そら)さんとご家族が叶えたイベントの様子をレポートします。(お話は、大空のお母さんにお伺いしました)
このストーリーのあらすじ
「企画をきっかけに、本人・家族の気持ちをリセットしたい」
池田大空さんは現在17歳、福島県の特別支援学校高等部に通っています。大空さんは悪性脳腫瘍の1つで、退形成性上衣腫という難治性のがんと、1歳の時から闘ってきました。2022年3月からは、17回目の手術を受けるため神奈川県にある北里大学病院に入院。術後の回復に時間がかかったため、当初の予定よりも入院が長引き、7月にやっと退院しました。
「その頃は、気持ちの面でも沈みがちでした。治療をがんばっているのに、報われない感じで…、元の生活に戻れないんじゃないかと思うようなこともありました。10年以上、通院以外の遠出や観光目的の外出は記憶にありません。大空は以前から動物と触れ合いたい希望があったのですが、動物園などに家族だけでいくことはなかなか叶いませんでした。動物と触れ合って、ぬくもりを感じることで、大空本人だけでなく家族も気持ちをリセットし、これからもがんばっていきたい。そんな思いから、動物と触れ合える機会を実現してほしいと、応募しました。実現できると聞いて、え!私たちが!これまでのがんばりが報われたのかな~という感じで、本当にうれしかったです」。
がんプラスとCaNoWは、大空さんと家族の願いを叶えるべく、「動物と触れ合う」プランニングを開始しました。ところがその矢先、新型コロナウイルス感染症に家族全員が罹患。2023年になり、大空さんの体調も回復したことから、企画が再スタートしました。しかし、2023年初頭からは大寒波や鳥インフルエンザの流行、インフルエンザの流行などもあったことから、動物園プランを見直し。最終的に、水族館を貸し切りで満喫するプランを実行することになりました。
東京・池袋のサンシャイン水族館を貸し切り!
2023年2月中旬、東京のど真ん中、高層ビルの屋上にある「サンシャイン水族館」を夕方から貸し切り、池田家専用の水族館見学が行われました。
当日、車で福島から上京した池田家。「車の中で、ずっと、さかな・さかな・さかなと連呼していて、よほど楽しみだったのだと思います。うるさいから少し静かにして!と言っても、ずっとしゃべり続けていましたよ」。
はじめに、屋外の「天空のペンギン」水槽を特別に少しだけ見学(※通常、貸し切りプランでは館内エリアのみ利用可)。薄暗い屋外エリアは、大空さんが転倒しないよう車いすで移動し、ペンギンたちが羽を広げて縦横無尽に泳ぐ姿を、水槽の下からながめました。
続いて、館内エリアへ。2フロアに広がる大小さまざまな水槽には、エイやサメ、いろいろな地域の魚だけでなく、クラゲ、カエルやカメなどさまざまな水辺の生き物も展示されています。
大空さんは、1つひとつ、じっくりと生き物の動きを目で追いながら、時間をかけて見て回ります。水槽から水槽へ、壁などに手をつきながら、そしてときどき、お母さんやCaNoWスタッフの補助を得ながら、大空さん自身の足でゆっくりと歩いて移動し、見て回りました。
生き物を見つけては、手を振ったり、「おかあさん、さかな、さかな~~」と大きな声で呼んだり、少し遠くを泳ぐ生き物には「いらっしゃ~い」と声をかけたりしながら、終始声を出して見て回りました。
サプライズで、水族館オリジナルのカワウソとペンギンの抱きまくらぬいぐるみをプレゼント!モチモチした肌触りと、見ているだけで癒されるぬいぐるみたちの表情に、大空さんもりくと君も、すっかり気に入った様子でした。
約2時間満喫した一家は、「まだまだ見足りないよ~」(大空さん)と名残惜しそうにしながらも、水族館を後に。少し遅めの夜ごはんを食べに、サンシャインシティのビル内にあるレストラン街へ。その日はそのまま池袋の天然温泉付きホテルに宿泊して、翌日に福島へ戻りました。
「大空が好きな魚はチンアナゴだったんですが、見たすべての生き物に興奮していましたね。周りを気にすることなく、家族のペースでゆっくりと楽しむことができて、本当によかったです。帰宅途中、テレビでサンシャイン水族館が取り上げられているのを見て、うれしくなりました。忘れられない1日になりました。ありがとうございました」。
希少がんの治療情報、得にくい状況は今も変わらず
大空さんの病気が見つかったきっかけは、風邪症状からだったそうです。「下痢や嘔吐などの症状があり、風邪薬をもらって飲ませたのですが効かず、逆に悪化して、首座りがガクガクになってしまいました。念のためにCTを撮ったところ、脳に腫瘍が見つかり、翌日、宮城県の東北大学病院を受診。緊急入院、手術を受けました。突然のこと過ぎて、私の頭は真っ白でした…」。
その後、半年に1回ほどのペースで再発・手術を繰り返すことに。東日本大震災が起こった2011年3月ごろは再発がなかった時期で、治療への影響はなかったそうです。
現在、大空さんの主治医は北里大学病院に在籍する医師ですが、東北大学病院でずっと大空さんを担当していた医師が異動したことに伴い、大空さんも転院。福島の総合病院で日常的なケアを受けながら、手術などの大きな治療は遠く離れた神奈川まで通院しています。
大空さんのがんは希少がんで、治療に関連する情報を得るのも困難を要します。インターネットが発達した現在と、病気が見つかった当時(16年前)を比べて、治療情報を得やすくなっているかとお母さんに尋ねたところ、「そうでもないかな…」と想いを明かしてくださいました。
「以前は同じ病棟で患者の親同士で直接やりとりがあったりしたのですが、最近は『治療が終わったら即退院(転院)』となってしまう方もいて、つながりが希薄かなと思います。特にコロナ禍になってからはそれがエスカレートした印象。ネットで検索すれば情報は出てはくるでしょうけど、自分の子どもがそれに当てはまるのかというと、そうでないことも…。不安を解消するには、以前出来ていたような、直接のコミュニケーションがあると助かりますよね」。
これからも治療を続けていくために
大空さんは、2022年春の手術、術後の化学放射線治療などを経て、今は一旦落ち着いている状態ですが、再発のリスクがあり、気の抜けない日々が続きます。また、大空さんは日常的に放課後等デイサービスを利用して支援を受けていますが、家ではお母さんが大空さんの身の回りのサポートをされています。大空さんの治療のために長く福島を離れることもあることから、治療を継続していくためには、家族や周囲の人の理解が不可欠です。
「一番の相談相手は、りくとのママ友なんですが、2人が小さいときから知っていて、聞き上手な方で、話を聞いてもらえると心が軽くなりますし、心強い存在です。りくと自身も、大空の病気が軽い病気ではないことはもちろんわかっています。小学校高学年になり、私が大変そうなのを見て、進んで手伝いをしてくれることもあります。今回のこの経験も、治療を続けていくための糧になってくれたと思います」。