慢性骨髄性白血病(CML) 早期に寛解導入で治癒を目指す最新治療

2018.9 取材・文:町口充

 かつて慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞移植をしなければ治癒は望めない病気といわれていましたが、原因となる遺伝子をターゲットにした分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬:TKI)が2001年に登場すると、治療は一変しました。今では第二世代、第三世代の薬も開発され、早期に病気を抑えれば、服用を続けながら通常の生活を送れるようになり、同時に、深い寛解を得て、薬の服用をやめることを目指した治療を行う時代になっています。

慢性骨髄性白血病とは

 白血病は、血液細胞のがんです。血液中にある赤血球、血小板、白血球の血液細胞をつくる細胞が骨髄でがん化し、がん化した細胞が骨髄内で増殖して占拠してしまうため、正常な血液細胞が減少し、感染症にかかりやすくなったり、貧血になったり、出血しやすくなったりなどさまざまな症状が起こります。

 骨髄の中にある造血幹細胞は、赤血球、白血球、血小板などのすべての血液細胞のもとになる細胞として、自己複製しながら、一方でさまざまな血液細胞へ分化していきます(図1参照)。造血幹細胞は、骨髄系の細胞とリンパ系の細胞に分化します。そして、赤血球、血小板、および、白血球のうち顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)と単球へ分化します。リンパ系細胞は、白血球のうちT細胞(Tリンパ球)、B細胞(Bリンパ球)、NK細胞というリンパ球へと、成熟・分化して、血液の中に出ていきます。

 白血病は、骨髄性やリンパ性、あるいは急性と慢性といった分類があります(表1参照)。血液の元となる細胞のうち、骨髄系細胞ががん化したものを骨髄性白血病、リンパ系細胞ががん化したものをリンパ性白血病といいます。骨髄の中で急速にがん細胞が増加して貧血や血小板減少、あるいは白血球の増加や減少をもたらし、発熱や貧血、出血傾向などの急性の症状が出現する急性の白血病と、そうした急性症状を呈しない慢性の白血病があります。

表1 白血病の主な分類

骨髄性リンパ性
急性急性骨髄性白血病
(AML: acute myeloid leukemia)
急性リンパ性白血病
(ALL: acute lymphoblastic leukemia)
慢性慢性骨髄性白血病
(CML: chronic myelogenous leukemia)
慢性リンパ性白血病
(CLL: chronic lymphocytic leukemia)

 慢性骨髄性白血病(以下、CML)は、骨髄系の細胞ががん化したタイプで、未熟なものから成熟した細胞まですべてが骨髄の中で増加します。

 発症率は、日本においては人口10万人あたり1人程度です。中年以降の発症数が多く、発症年齢中央値は53歳であるため、高齢化の進展とともに患者数は増加傾向にあります。男女別では男性にやや多いと報告されています。

 原因となる遺伝子が特定されていないがんが多い中で、CMLは発生原因となる遺伝子が突き止められています。

 人間には46本の染色体がありますが、CMLの患者さんではこのうち9番と22番の染色体が一部入れ替わってつながった短い染色体が生じていることがわかっています(図2参照)。この染色体はフィラデルフィア染色体と呼ばれます。染色体が入れ替わってつながるとき、もともと22番染色体の上にあるBCR遺伝子と、9番染色体上にあるABL遺伝子が新たに結合してBCR-ABL遺伝子ができます。これが、CMLの原因遺伝子です。このBCR-ABL遺伝子は、細胞の中にBcr-Ablタンパクをつくります。このタンパクには特有のポケットがあり、ATPというエネルギー物質がポケットにつくとスイッチが入ってBcr-Ablタンパクが活性化します。Bcr-Ablタンパクは「白血病細胞を増やせ」という指令を出し、白血病細胞が無限に増えていくと考えられています。ただし、フィラデルフィア染色体がつくられる原因は不明です。

図1 造血幹細胞と血液の分化
図2 CMLの原因となるフィラデルフィア染色体とBCR-ABL遺伝子

慢性骨髄性白血病の症状、検査、診断

 CMLの病状の特徴として、慢性期、移行期、急性期の3段階に分かれていることが知られています。慢性期では進行が遅く、また、増えてくる白血病細胞はこの時点では正常な血球とほぼ同じ機能を有しているため、自覚症状はほとんどありません。移行期になると成熟する能力を失った芽球が増え、白血球もさらに増えてくるので、貧血や全身のだるさ、発熱、脾臓の腫れでおなかが張ってくるといった症状が見られるようになります。急性期になると急性白血病と同じような症状があらわれるようになり、強い貧血や出血傾向、高熱などが出現します。

 CMLの85%は、慢性期で発見されています。企業健診や市区町村による健診などで血液検査を受けた際に白血球数の高値がわかるなどがきっかけとなり、この時点では半数の人が無症状です。白血球数はときに基準上限値の10倍以上になります。特に、好中球系の若い段階の幼弱な血球細胞が血中にあらわれることと好塩基球の増加がCMLのきわめて特徴的な所見です。

 血液検査でCMLが疑われたら骨髄検査を行います。腰にある腸骨から骨髄液を採取して調べます。骨髄中の細胞の数や種類を調べるとともに、染色体や遺伝子の検査もあわせて行い、フィラデルフィア染色体およびBCR‐ABL遺伝子の有無を確認することにより最終的な確定診断となります。

慢性骨髄性白血病の治療

 BCR-ABL遺伝子の働きを抑え込む分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬:TKI)のイマチニブ(製品名:グリベック)が、2001年に登場しました。これによりCMLの治療成績が一気に向上しました。イマチニブは、BCR-ABL遺伝子によってつくられるBcr-Ablタンパクをターゲットにし、Bcr-Ablタンパクが活性化するスイッチをオフにする薬です。

 イマチニブとそれまでの標準治療であるインターフェロン+シタラビン(製品名:キロサイド)の併用療法とを比較した臨床試験の結果で、イマチニブの圧倒的な治療効果が示されました。

 この結果、生存期間の大幅な延長が可能となり、2000年ぐらいまでは“予後不良疾患”とされ、生存期間の中央値(治療を受けた集団の中でちょうど真ん中の人が生存した期間)が3~6年でしたが、イマチニブが登場した2001年以降は“予後良好疾患”に変わりました。

 従来の治療では、ドナーから提供された造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植が、治癒が得られる唯一の治療法とされていました。しかし、これによって60~70%の患者さんで長期生存・治癒が期待できる一方で、移植後の特有の合併症などが生活の質を低下させることなどが問題でした。これに対して、初回治療時でイマチニブの治療を受けた患者さんでは長期生存率が90%以上に達し、そのうちCMLが原因で亡くなった人はわずか5%に留まっていて、同種造血幹細胞移植を含む従来の治療法を大きく上回る成績であることから、現在ではCMLに対する治療の第1選択薬は分子標的薬と位置づけられています。

 さらに、イマチニブに続いて、第二世代のTKIであるニロチニブ(製品名:タシグナ)ダサチニブ(製品名:スプリセル)、第三世代のボスチニブ(製品名:ボシュリフ)ポナチニブ(製品名:アイクルシグ)も登場しました。治療の選択肢が広がっており、今では生存期間の中央値は25年以上といわれています。

慢性骨髄性白血病の治療効果の判定基準

 CMLでは次のような治療効果の判定基準があり、これをどこまでクリアできたかが重要となります。

 治療を始めて最初にクリアすべき基準は「血液学的完全寛解(CHR)」です。治療開始後、2週間に1回程度血液を採取して調べ、白血球数が1万未満、血小板数が45万未満、白血球数の内訳で幼弱な細胞がなく好塩基球が5%未満で、脾臓の腫れが見られなくなった状態です。

 次に3~6か月に1回程度、染色体検査を行い、フィラデルフィア染色体をもつ細胞が見つからなくなったら「細胞遺伝学的完全寛解(CCyR)」と判断します。

 その後は、血液中の細胞のBCR-ABL遺伝子量を調べて、0.1%以下になると「分子遺伝学的効果(MMR)」と判断します。この検査で2回連続してBCR-ABL遺伝子がさらに低下して0.0032以下の場合、「分子遺伝学的完全寛解(DMR)」到達と判断されます。

慢性骨髄性白血病の新たな治療戦略

 日本でイマチニブが使われるようになってから20年近くがたちました。依然として初回治療の第1選択薬はイマチニブなのかというと、これには議論があります。

慢性骨髄性白血病の新たな治療戦略とは
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プロフィール
大橋一輝(おおはし・かずてる)

1992年 東京医科歯科大学大学院修了。その後、東京医科歯科大学第一内科、米国テキサス大学ヒューストン校医学部血液内科フェローを経験
1997年 がん・感染症センター都立駒込病院 血液内科医員
2012年 がん・感染症センター都立駒込病院 血液内科部長

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