治療

骨髄異形症候群の同種造血幹細胞移植、免疫抑制療法、化学療法、支持療法など治療法に関してご紹介します。

骨髄異形症候群の同種造血幹細胞移植

 骨髄異形症候群で治癒が期待できる治療法は、同種造血幹細胞移植です。移植を行う前に、対象の細胞傷害性抗がん剤や放射線照射(前処置)で、異常な細胞を含むすべての血液細胞を破壊します。年齢が高い、もしくは合併症があるため前処置のリスクが高い患者さんでは、前処置の強度を軽くして行われます。前処置を行った後、ドナーから採取した造血幹細胞を移植し、正常な造血機能を回復させます。

 高リスクの患者さんでは、血球減少や白血病への進展リスクが高いため、可能なら速やかに同種造血幹細胞移植を行います。55歳未満でHLA型の不適合が1座以内の血縁者ドナーが存在し、移植に耐えられる全身状態の患者さんには最適の治療です。血縁者のドナーが存在しない場合は、血縁者以外のドナーによる同種造血幹細胞移植が行われます。

 低リスクの患者さんでは、同種造血幹細胞移植を行うかどうか、慎重に検討されます。60歳以下の患者さんでは、HLA型が一致した血縁者がいた場合でも、病期が進行してからの移植が望ましいとされています。60~70歳の患者さんに対する低強度の前処置による同種造血幹細胞移植でも同様との臨床試験結果が報告されています。

 臍帯血移植は、へその緒の中にある造血幹細胞を使った移植法です。高リスク患者さんでは、症例により移植を検討されますが、低リスクの患者さんに対する臍帯血移植は、まだ症例数が少なく評価が不十分なため、臨床試験として検討される治療法です。

日本造血細胞移植学会ガイドラインによる骨髄異形症候群に対する移植適応

自然発症MDS
IPASSHLA適合の血縁者が存在HLA適合の非血縁者が存在臍帯血移植
HLA-allele1座不適合の非血縁者
HLA 1抗原不適合血縁者
低い症例により移植を考慮しても良い症例により移植を考慮しても良い開発中で、臨床試験として実施すべき
中程度1症例により移植を考慮しても良い症例により移植を考慮しても良い開発中で、臨床試験として実施すべき
中程度2移植が標準治療移植が標準治療症例により移植を考慮しても良い
移植が標準治療
高い移植が標準治療移植が標準治療症例により移植を考慮しても良い
移植が標準治療
IPASS-RHLA適合の血縁者が存在HLA適合の非血縁者が存在臍帯血移植
HLA-allele1座不適合の非血縁者
HLA 1抗原不適合血縁者
とても低い症例により移植を考慮しても良い症例により移植を考慮しても良い開発中で、臨床試験として実施すべき
低い症例により移植を考慮しても良い症例により移植を考慮しても良い開発中で、臨床試験として実施すべき
中程度症例により移植を考慮しても良い
移植が標準治療
症例により移植を考慮しても良い
移植が標準治療
症例により移植を考慮しても良い
高い移植が標準治療移植が標準治療症例により移植を考慮しても良い
移植が標準治療
とても高い移植が標準治療移植が標準治療症例により移植を考慮しても良い
移植が標準治療
治療関連MDS
移植が標準治療移植が標準治療症例により移植を考慮しても良い

出典:一般社団法人日本造血細胞移植学会. ”造血細胞移植ガイドライン骨髄異形症候群骨髄増殖性腫瘍(成人)(第3版)”.2018.II同種造血幹細胞移植の適応「表1」を和訳

骨髄異形症候群の免疫抑制療法

 芽球(がきゅう:幼若な形態の血液細胞)増加が認められない低リスクの患者さんでは、抗胸腺細胞グロブリンやシクロスポリンによる造血機能の回復を目的とした免疫抑制療法が海外では推奨されていますが、国内では未承認です。特に「HLA-DR15遺伝子」陽性の患者さんや若年の患者さん、赤血球の輸血歴が短い患者さんでは、効果が期待される治療法です。

骨髄異形症候群の化学療法

 化学療法は、芽球を減らし、病気の進行を遅らせるために行います。使用される抗がん剤の種類や投与量は、患者さんの状態により判断されます。

レナリドミド

 低リスク患者さんで染色体5q欠失のある5-q症候群では、レナリドミドよる治療が行われます。レナリドミドは、「セレブロン」というタンパク質と結合して効果を示す免疫調整薬です。免疫調整薬は、サイトカイン産生調整作用や造血器腫瘍細胞の増殖抑制作用、血管新生阻害作用をもつ薬剤です。レナリドミドとセレブロンが結合すると細胞内の遺伝子発現を変化させ、がん細胞の増殖を抑制します。また、免疫細胞に働きかけることで免疫を活性化させる作用もあります。

アザシチジン

 アザシチジンは、DNAメチル化阻害薬です。がん細胞では、DNAが「メチル化」という化学修飾を受けることにより、がん抑制遺伝子が抑制されています。アザシチジンは、DNAのメチル化を抑えてがん抑制遺伝子の抑制を解除することで、抗腫瘍効果を発揮します。また、細胞の基となるタンパク質の合成を妨げることで、異常細胞の増殖を抑制します。

 サイトカイン療法や免疫抑制療法の対象とならない低リスクの患者さんの一部では、アザシチジンによる治療で造血の回復が認められますが、生存期間の延長を示したエビデンスがないため、生存期間延長を目的とした第一選択薬としての使用は推奨されていません。一方、同種造血幹細胞移植の適応がない高リスクの患者さんに対し、アザシチジンは第一選択薬です。

骨髄異形症候群の支持療法

 骨髄異形症候群の支持療法は、血球の減少に伴うさまざまな症状の緩和や、生活の質を改善するために行われます。

輸血療法

 骨髄異形症候群の患者さんに対する輸血療法は、病気や治療により破壊された血液細胞を補充する目的で行われます。赤血球の減少により、息切れや疲労感、貧血などの症状がある場合は、赤血球の輸血が行われます。血小板の減少により、出血や血が止まりにくいといった症状がある場合は、血小板の輸血が行われます。

鉄キレート療法

 一定量の赤血球輸血を受けた骨髄異形症候群の患者さんは、鉄過剰状態になっていることがあります。1年以上の予後が期待され、かつ定期的な赤血球輸血を必要とする場合に行われるのが、鉄キレート療法です。鉄の過剰は活性酸素を亢進させ、組織障害の原因になると考えられているため、鉄キレート剤の投与により体内で過剰になっている鉄を排除します。

赤血球産生刺激薬(サイトカイン療法)

 サイトカインは、細胞同士の情報伝達を行う低分子のタンパク質の総称で、免疫反応の増強や制御、細胞増殖、細胞分化の調節などを行う作用があります。低リスクの骨髄異形症候群に対して、貧血を改善する目的で、造血を促進するはたらきがあるサイトカインによる治療が行われます。サイトカインであるエリスロポエチンを週1~3回投与、またはダルベポエチンを週1~3回投与による治療で、貧血が改善するという報告があり、ダルベポエチンは「骨髄異形症候群に伴う貧血」に対し保険適用となっています。

抗生物質療法

 白血球の減少により感染症に罹りやすくなっている場合に、感染対策の治療として抗生物質が投与されます。

参考文献:一般社団法人日本血液学会編. ”造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版”.金原出版,2018.

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