治療

骨髄異形症候群の同種造血幹細胞移植、免疫抑制療法、化学療法、支持療法など治療法に関してご紹介します。

骨髄異形症候群の同種造血幹細胞移植

 骨髄異形症候群で治癒が期待できる治療法は、同種造血幹細胞移植です。移植を行う前に、対象の細胞傷害性抗がん剤や放射線照射(前処置)で、異常な細胞を含むすべての血液細胞を破壊します。年齢が高い、もしくは合併症があるため前処置のリスクが高い患者さんでは、前処置の強度を軽くして行われます。前処置を行った後、ドナーから採取した造血幹細胞を移植し、正常な造血機能を回復させます。

 高リスクの患者さんでは、血球減少や白血病への進展リスクが高いため、可能なら速やかに同種造血幹細胞移植が行われます。HLA型の不適合が1座以内の血縁者ドナー(HLA適合ドナー)が存在し、移植に耐えられる全身状態の患者さんには最適の治療とされています。HLA適合ドナーがいない患者さんでは、HLA不適合の血縁者または非血縁者のドナーによる同種造血幹細胞移植や臍帯血移植が考慮されます。臍帯血移植は、へその緒の中にある造血幹細胞を使った移植法です。

 低リスクの患者さんでは、同種造血幹細胞移植は推奨されていませんが、高リスクへの進行が認められた場合は、同種造血幹細胞移植が検討されます。高齢者や合併症があり、強力な前処置がリスクとなる患者さんに対しては、減弱した前処置による同種造血幹細胞が考慮されます。

骨髄異形症候群の免疫抑制療法

 芽球(がきゅう:幼若な形態の血液細胞)増加が認められない低リスクの患者さんでは、抗胸腺細胞グロブリンやシクロスポリンによる造血機能の回復を目的とした免疫抑制療法が海外では推奨されていますが、国内では未承認です。特に「HLA-DR15遺伝子」陽性の患者さんや若年の患者さん、赤血球の輸血歴が短い患者さんでは、効果が期待される治療法です。

骨髄異形症候群の化学療法

 化学療法は、芽球を減らし、病気の進行を遅らせるために行います。使用される抗がん剤の種類や投与量は、患者さんの状態により判断されます。

レナリドミド

 低リスク患者さんで染色体5q欠失のある5-q症候群では、レナリドミドよる治療が行われます。レナリドミドは、「セレブロン」というタンパク質と結合して効果を示す免疫調整薬です。免疫調整薬は、サイトカイン産生調整作用や造血器腫瘍細胞の増殖抑制作用、血管新生阻害作用をもつ薬剤です。レナリドミドとセレブロンが結合すると細胞内の遺伝子発現を変化させ、がん細胞の増殖を抑制します。また、免疫細胞に働きかけることで免疫を活性化させる作用もあります。

アザシチジン

 アザシチジンは、DNAメチル化阻害薬です。がん細胞では、DNAが「メチル化」という化学修飾を受けることにより、がん抑制遺伝子が抑制されています。アザシチジンは、DNAのメチル化を抑えてがん抑制遺伝子の抑制を解除することで、抗腫瘍効果を発揮します。また、細胞の基となるタンパク質の合成を妨げることで、異常細胞の増殖を抑制します。

 サイトカイン療法や免疫抑制療法の対象とならない低リスクの患者さんの一部では、アザシチジンによる治療で造血の回復が認められますが、生存期間の延長を示したエビデンスがないため、生存期間延長を目的とした第一選択薬としての使用は推奨されていません。一方、同種造血幹細胞移植の適応がない高リスクの患者さんに対し、アザシチジンは第一選択薬です。

骨髄異形症候群の支持療法

 骨髄異形症候群の支持療法は、血球の減少に伴うさまざまな症状の緩和や、生活の質を改善するために行われます。

輸血療法

 骨髄異形症候群の患者さんに対する輸血療法は、病気や治療により破壊された血液細胞を補充する目的で行われます。赤血球の減少により、息切れや疲労感、貧血などの症状がある場合は、赤血球の輸血が行われます。血小板の減少により、出血や血が止まりにくいといった症状がある場合は、血小板の輸血が行われます。

鉄キレート療法

 一定量の赤血球輸血を受けた骨髄異形症候群の患者さんは、鉄過剰状態になっていることがあります。1年以上の予後が期待され、かつ定期的な赤血球輸血を必要とする場合に行われるのが、鉄キレート療法です。鉄の過剰は活性酸素を亢進させ、組織障害の原因になると考えられているため、鉄キレート剤の投与により体内で過剰になっている鉄を排除します。

赤血球産生刺激薬(サイトカイン療法)

 サイトカインは、細胞同士の情報伝達を行う低分子のタンパク質の総称で、免疫反応の増強や制御、細胞増殖、細胞分化の調節などを行う作用があります。

 骨髄異形症候群に対するサイトカイン療法には、「赤血球造血刺激委因子(ESA)製剤」「顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤」「ルスパテルセプト」「トロンボポエチン受容体作動薬」による4種類の治療があります。

 低リスクの骨髄異形症候群に対しては、貧血を改善する目的で造血を促進する働きがあるESA製剤による治療が行われます。エリスロポエチンを週1~3回投与、またはダルベポエチンを週1~3回投与による治療で、貧血が改善するという報告があり、ダルベポエチンは「骨髄異形症候群に伴う貧血」に対し保険適用となっています。

 G-CSF製剤は、好中球減少を改善することで、感染症リスクを低減する薬剤です。顕著な好中球減少症や感染症発症時には、炎症増悪など全身への影響を観察しながら、抗菌薬との併用で短期間投与が検討されます。また、G-CSF製剤は、ESA製剤の反応を増強しますが、QOLの改善がまだ認められていないため、ESA製剤の反応増強を目的とした投与は、日本では保険適用外となっています。

 ルスパテルセプトは、β-サラセミアに伴う貧血の治療、またはESA製剤に不応もしくは不耐容または不適格で、赤血球輸血が必要な低リスクの骨髄異形症候群に対する治療薬です。現在米国で承認されていますが、日本では保険適用外となっています。

 トロンボポエチン受容体作動薬は、血小板減少を伴う低リスクの骨髄異形症候群に対して、血小板数を増加させ重篤な出血リスクを低減しますが、現在日本では保険適用外となっています。

タンパク同化(アナボリック)ステロイド

 タンパク同化ステロイドは、生体の化学反応により摂取した物質からタンパク質を作り出す作用があります。骨髄異形症候群では、低リスクの貧血症状改善のために使用されることがありますが、保険適用外で標準治療としては推奨さてれていません。

ビタミン製剤

 低リスクの骨髄異形症候群で、サイトカイン療法不応あるいは不耐容の場合、ビタミンDやビタミンKよるビタミン療法が考慮されますが、現在日本では保険適用外となっています。

レナリドミド

 レナリドミドは、サリドマイド誘導体で、免疫調整をはじめとして生体に対しさまざまな効果を発揮する薬剤です。5q-を伴う低リスクの骨髄異形症候群で赤血球輸血依存となった患者さんに対しては、レナリドミドによる治療が推奨されていますが、5q-を伴わない場合は、保険適用外となり現時点では第一選択薬として推奨されていません。

アザシチジン

 アザシチジンは、DNAのメチル化を誘導することで、がん抑制遺伝子を発現させ抗腫瘍効果を発揮するDNAメチル化阻害薬です。予後不良と予想される低リスクの骨髄異形症候群で、造血機能の回復が認められる場合がありますが、生存期間延長を目的とした投与は推奨されていません。

 同種造血幹細胞移植が適応外の患者さんに対しては、アザシチジンは第一選択薬として推奨されています。また、同種造血幹細胞移植への橋渡し治療として、患者さんの状態や移植までの期間などによっては、治療選択肢として検討されます。

参考文献:一般社団法人日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版.金原出版

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