肺がん治療方針の決定と治療法選択、そのために必要な検査とは?
- 光冨徹哉(みつどみ・てつや)先生
- 近畿大学医学部外科 呼吸器外科教授
1955年福岡県生まれ。80年九州大学医学部卒業。86年同大学大学院修了。89年米国国立癌研究所留学。産業医科大学第二外科、九州大学第二外科などを経て、95年より愛知県がんセンター中央病院胸部外科部長。2006年同センター副院長に就任。2012年5月、近畿大学医学部外科 呼吸器外科部門に就任。現職。
本記事は、株式会社法研が2012年3月24日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 肺がん」より許諾を得て転載しています。
肺がんの治療に関する最新情報は、「肺がんを知る」をご参照ください。
肺がんの特徴や状態を知って治療法を検討する
肺がんになる人、亡くなる人が増えている
わが国では、肺がんにかかる人、亡くなる人がともに増加傾向にあります。2010年のデータによれば、肺がんによって亡くなる人は約7万人を数え、がんのなかでもっとも死亡者数の多いがんとなっています。
また、肺がんになる人の増加数と亡くなる人の増加数は非常に接近しています。これは、肺がんが治りにくいがんであることを示しています。
しかし、早期に発見された場合には、根治も十分に望めるので、早期発見のための定期的な検診、予防の重要性が指摘されています。
予防の基本は禁煙 喫煙者はできればCT検診を
肺がん予防の基本は、禁煙です。喫煙と肺がんの発病のリスク(危険性)については、さまざまな研究があり、相関関係があるといわれています。1日の喫煙本数×喫煙年数を喫煙指数といい、この値が400以上の人は、肺がんになる確率が高いグループとして、注意が必要とされます。
具体的には、たとえば1日にタバコを20本吸う人は、タバコを吸わない人(非喫煙者)のおよそ10倍の確率で、肺がんで死亡する危険性が増すといわれています。
一方、最近は、タバコを一度も吸ったことのない人の肺がん、とくに腺(せん)がんの発病が増える傾向にあります。その一部には、自分以外の喫煙者のタバコの煙を吸う受動喫煙が影響しているのではないかと推測されています。夫がヘビースモーカーである場合、その妻が肺がんになる可能性は2~3倍上昇するとされています。
こうした背景に思い当たる人には、CT(低線量)による検診が勧められます。
ハイリスクの人たちを対象に海外で行われた臨床試験では、CT検診を受けることで、肺がんによる死亡率を低下させることが報告されています。
肺がんの特徴
肺は全身の血液のガス交換を担う臓器。
早期には症状が出にくく、転移しやすい肺がんには抗がん薬の力も重要になります。
ガス交換を担う重要な臓器の肺をおかす
肺がんは治りにくいがんと述べましたが、それは、肺がんのもっているいくつかの特徴によります。
まず、肺のしくみと働きについて簡単に解説します。
肺は、胸腔(きょうくう)内で左右一対をなし、右の肺は3つの肺葉(はいよう)(上葉(じょうよう)、中葉(ちゅうよう)、下葉(かよう))、左の肺は2つの肺葉(上葉、下葉)に分かれます。左右の肺を隔てる部分を縦隔(じゅうかく)といいます。
空気の通り道となる気管は、枝分かれを繰り返して肺の奥に向かい、網の目のような気管支を形づくりながら、肺胞に達します。肺胞はぶどうの房のような小さな袋状の構造をしていて、毛細血管に覆われています。この肺胞を空気が通過するときに、毛細血管との間で、二酸化炭素と酸素の交換(ガス交換)が行われます。このガス交換は、私たちの生命の維持に欠かせない働きであり、肺が担う重要な役割です。
肺がんは、空気の通り道である気管、気管支、その先にある肺胞の細胞に発生するがんです。
一般にがんは、細胞の増殖に関係している遺伝子の異常によっておこるといわれています。遺伝子に生ずる異常には、細胞の増殖を促すアクセル(がん遺伝子)の故障、細胞の増殖を抑えるブレーキ(がん抑制遺伝子)の故障、アクセルやブレーキを修理する働き(DNA修復遺伝子)の故障などがあります。これらの異常によって、細胞が無秩序に増え続けることでがんが発生します。
なぜ、治りにくいがんといわれるのか
肺がんの症状としては、せきや血痰(けったん)、胸の痛み、息切れ、声のかすれ、顔や首のむくみなどがみられます。ただし、肺がんに特徴的なものはなく、症状だけでは、かぜなどとの区別をつけることができません。また、早期にはこうした症状はほとんどみられず、自覚症状がきっかけで発見される肺がんは、かなり進行しており、すでに根治が難しい場合が多くなります。そこで、肺がんでは、いかに症状がない早期のうちに発見するかが重要となります。
さらに、非常に厄介ながんの特性として、無秩序に増殖し続け、周辺にじわじわ広がっていく(浸潤(しんじゅん))こと、そして「転移」が挙げられます。肺がんではもともと発生した部分(原発巣(げんぱつそう))とは遠く離れたところに、血管やリンパ管を通じて飛び火し、がんが発生してしまうことが少なくありません。肺は、全身の血流の中心であり、大きな血管がいくつも集まっています。肺がんは、血管やリンパ管、さらに気道を経由する場合も含めて、転移がおこりやすいといわれています。
病気の進行状態にもよりますが、局所療法と呼ばれる手術療法や放射線療法だけでは、この転移を防ぐことが難しい場合が多く、がんの根治や、再発の予防には、抗がん薬による全身療法の力が非常に重要になってきます。ところが、ほかのがんに比べ、肺がんは抗がん薬の効果が小さいことが指摘されています。このような条件が重なり、肺がんは治りにくいがんといわれています。
しかし、最近では、がんが発生するしくみの解明が進み、ある種の肺がんでは発生に関係する遺伝子の変異や、がん細胞の増殖にかかわっているたんぱく質が特定されるようになってきました。これを利用してがん細胞だけを狙い、より効率的にがんを抑える薬が開発されています。これを分子標的薬といいます。
従来の抗がん薬は、正常な細胞に対しての影響が避けられず、高い効果を得ようとすると、それだけつらい副作用が現れるなど、使用量を見極める難しさがあります。
それに比べ、分子標的薬は、がん細胞に的を絞って攻撃できるので、あとで詳しく解説されるように、ある条件を備えた患者さんには劇的な効果が得られることがわかってきています。
現在は、3つの分子標的薬が標準治療として認められていますが、今後も多くの臨床研究が予定され、期待が高まっているところです。
組織型、病期と治療法の選択
肺がんを非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分類。
さらに進行状態を示す病期を判定し、患者さんの状態も加味して、治療方針を検討します。