基礎知識

胃がんとはどんな病気なのか、原因や症状、検診内容など基礎知識を紹介します。

胃がんとは

胃は、口、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門とつながる消化管の中でも、上部消化管と呼ばれる部分の1つで、口から食道を通り送られてきた食べ物を一時的に貯め消化する臓器です。固形状の食物は、胃に貯められている間に消化液(胃液)とまぜられ、細かく(お粥状に)なり、少しずつ十二指腸へ送られます。その後、小腸を通るときに栄養素が吸収されます。胃と食道の境目を噴門部、中心部を胃体部、十二指腸との境目を幽門部といいます。胃壁は5つの層で構成され、内側から、粘膜、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)でできています。

ほとんどの胃がんは、この5層のうち粘膜にある細胞が、がん化し無秩序に増殖することで発症します。がんは進行するにつれ、内側から外側へ浸潤していきます。また、胃がんは、腺組織と呼ばれる上皮細胞ががん化するものがほとんどです。

胃がんのうち約10%を占めるスキルス胃がんは、胃壁の中をしみこんでいくように浸潤していくため、粘膜表面に病変が現れにくいことが多いがんです。内視鏡検査での診断が難しいこともあり、進行した状態で発見されることもあります。また、腹膜播種リンパ節転移の頻度が高く、治療が困難で根治を目指した治癒的切除ができないことも多いとされています。

胃がんの罹患率と生存率

国立がん研究センターがん対策情報センターの最新がん統計によると、がんで亡くなった人のうち胃がんは、男性で2位、女性で5位、男女合計で3位でした(2020年データ)。2018年の罹患数(がん患者さんの数)の統計では、胃がんは男性で2位、女性で4位、男女合計では2位となっていました。

また、胃がんの5年生存率は、男性で67.5%、女性で64.6%、10年生存率は、男性で61.3%、女性で58.2%でした。

死亡数

男性2位
女性5位
男女合計3位

罹患数

男性2位
女性4位
男女合計2位

5年生存率

男性67.5%
女性64.6%

10年生存率

男性61.3%
女性58.2%

胃がんは、40歳代後半から増加しますが、全体に罹患率(胃がんになった人の割合)は減少傾向です。しかし高齢化のため、全体の罹患数(胃がんになった人の人数)では横ばい状態となっています。世界的には、胃がんの罹患数は東アジア人で高く、欧米などの白人では低くなっています。

※各がんのがん罹患率、生存率の最新情報は、がん情報サービス「がんの統計」をご参照ください。

胃がんの原因

胃がんのリスク要因は、これまでの研究によりいくつか指摘されています。

  • 喫煙
  • 野菜や果物の摂取不足
  • 塩分の過剰摂取
  • ヘリコバクターピロリ菌の持続感染

国立がん研究センター社会と健康研究センターの予防研究グループによると、日本人においても喫煙による胃がんリスクが高くなることは確実としており、喫煙者では非喫煙者に比べて胃がんの発生リスクが1.6倍高くなるとしています(喫煙と胃がんについての評価)。

また、飲酒により胃がんの発生リスクが高くなるという科学的根拠は「十分ではない」とされています。

日本の4つのコホート研究の19万人以上のデータを併せたプール解析によると、野菜や果物の摂取が胃がんの発生リスクの低下につながる可能性(特に、男性の下部胃がんリスク)が示されています。一方、塩分の過剰摂取が、日本人の胃がんリスクが高くする原因の1つとしています。

そのため、禁煙を心掛け、野菜や果物の摂取不足、塩分過剰摂取にならないバランスの良い食事を心掛けることが大切です。

1994年に世界保健機関(WHO)では、ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)は胃がんのリスク要因として「確実」と認定しました。ピロリ菌が持続感染することで、胃の粘膜が萎縮し胃がんになりやすい状態を作り出します。ピロリ菌に感染していても必ず胃がんになるわけではありませんが、発生リスクが高くなるため除菌療法と定期的な検査が推奨されています。感染率は、中高年で高く若年層では低下傾向にあります。

「遺伝性びまん性胃がん(HDGC)」は、遺伝子の変化が原因で発症する遺伝性のがんで、スキルス胃がんと呼ばれることがあります。HDGCの原因遺伝子として、16番染色体の16q22.1という位置に存在するCDH1遺伝子が見つかっています。

※遺伝性のがんに関しては、QLife遺伝性疾患プラスの記事もご参照ください。

胃がんの症状

胃がんは、早期には自覚症状があらわれることがあまりなく、進行しても無症状の場合もあります。

胃がんの代表的な症状は、胃がん特有なものではなく、胃炎や胃潰瘍と似た症状です。

  • 胃の痛み
  • 不快感
  • 違和感
  • 胸やけ
  • 吐き気
  • 食欲不振

こうした症状がある場合は、自己判断せず医療機関を受診し検診を受けることが大切です。

胃がんの検診

胃がん検診は、対策型検診と任意型検診があります。対策型検診は、会社などで加入している健康保険組合や自治体が定期的に行う検診で、任意型検診は、個人の希望で行う検診です。いずれの検診でも、有効性評価に基づくがん検診ガイドラインでは、50歳以上を対象として、問診と胃部X線検査(1年に1回)か胃内視鏡検査を2年に1回受けることが推奨されています。

胃部X線検査(バリウム検査)

胃部X線検査は、造影剤のバリウムと胃を膨らませる発泡剤を飲み、X線(レントゲン)で撮影する画像検査です。胃部X線検査だけでは、がんと確定診断することはできません。異常があった場合は、精密検査として胃内視鏡検査が行われ、がんと疑われる病変があれば組織を採取する生検による病理検査の上、確定診断されます。

胃部X線検査は、簡便な検査ですが、造影剤(バリウム)による過敏症(アレルギー)がでることがあるため、じんましん、手足が冷たくなる、喉がつまる、息苦しい、嘔吐などの症状があれば、すぐに医療機関に連絡し、医師の処置を受けてください。

胃内視鏡検査

胃内視鏡検査は、先端に小型のカメラがついた細く柔軟なチューブを口から挿入して胃の内部を直接観察する検査です。鼻から挿入して行われる場合もあります。がんと疑われる病変があった場合は、内視鏡を使い組織を採取して調べる生検が行われます。従来は、任意型検診で行われることが多くありましたが、2016年の「がん検診実施のための指針」の改訂により、対策型検診でも行われるようになっています。

参考文献:日本胃癌学会. ”胃癌治療ガイドライン 医師用 2021年7月改訂 第6版”.金原出版,2021.

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