子宮体がんの治療

子宮体がんのステージ分類による、治療選択と治療法を紹介します。

子宮体がんの治療選択

 子宮体がんは、他の婦人科がんと比較して、放射線治療や化学療法の効果があまり高くないため、手術が第一選択とされています。手術前の検査で、ステージ1・2と推定される患者さんとステージ3・4と推定される患者さんで、治療選択が異なります。また、手術により決定されるステージ「手術進行期分類」によって、治療方針が決定されます。

推定ステージ1・2の治療選択

 ステージ1と推定され、手術が可能で類内膜がんのグレード1、2かつ筋層への浸潤が2分の1未満の患者さんに対する初回治療は、以下の治療から選択されます。

  • 単純子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 拡大単純子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 内視鏡手術
  • 腹水細胞診/腹腔洗浄細胞診

 また、その他の治療選択として以下の治療が検討されます。

  • 後腹膜リンパ節郭清
  • 卵巣温存
  • 妊孕性温存療法(患者さんの強い希望があり、適格と判断された場合)

 ステージ1と推定される手術可能なその他の患者さんに対しては、以下の治療から選択されます。

  • 単純子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 拡大単純子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 後腹膜リンパ節郭清
  • 腹水細胞診/腹腔洗浄細胞診

 また、その他の治療選択として以下の治療が検討されます。

  • 準広汎子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 大網切除術
  • 内視鏡手術

 ステージ2と推定され、手術前の検査で子宮頸部への浸潤が疑われる手術可能な患者さんに対する治療選択は、以下の通りです。

  • 単純子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 拡大単純子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 広汎子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 後腹膜リンパ節郭清
  • 腹水細胞診/腹腔洗浄細胞診

 また、その他の治療選択として以下の治療が検討されます。

  • 準広汎子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 広汎子宮全摘出術/両側付属器摘出術
  • 大網切除術
  • 内視鏡手術
推定ステージ1・2の治療選択
推定ステージ1・2の治療選択
出典:日本婦人科腫瘍学会編.子宮体がん治療ガイドライン2023年版.フローチャート1より作成

術後子宮体がんまたは再発中高リスクが判明した治療選択

 子宮摘出後に推定ステージが1Aのグレード1または2の子宮体がんと判明した場合、画像検査が行われ残存病変がなければ、「追加治療なし」「化学療法」「放射線治療」のいずれかが、患者さんの状態により選択されます。残存病変があった場合は、再手術によるステージ分類または転移巣の組織診断が行われ、「化学療法」「放射線治療」のいずれかが、患者さんの状態により選択されます。

 推定ステージ1Aで特殊な組織型あるいはグレード3と判定された場合、および、推定ステージ1B、2、3と判定された場合は、画像検査により残存病変の有無を調べます。残存病変がなければ、「化学療法」「放射線治療」のいずれかが、患者さんの状態により選択されます。残存病変があれば、再手術によるステージ分類または転移巣の組織診断が行われ、「化学療法」「放射線治療」のいずれかが、患者さんの状態により選択されます。再発リスクが低いと推定された患者さんが、手術後に中リスクまたは高リスクと判定された場合も、同様の治療選択が行われます。

術後子宮体がんまたは再発中高リスクが判明した治療選択
術後子宮体がんまたは再発中高リスクが判明した治療選択
※NCCNガイドライン2022年版では、再発低リスクのうち、脈管侵襲陰性かつ腫瘍径が2cm未満の場合に追加治療なしとされています。
出典:日本婦人科腫瘍学会編.子宮体がん治療ガイドライン2023年版.フローチャート2より作成

推定ステージ3・4の治療選択

 ステージ3・4と推定される手術可能な患者さんに対しては、以下の治療から選択されます。

  • 子宮全摘出術/ 両側付属器摘出術
  • 腹水細胞診/腹腔洗浄細胞診
  • 後腹膜リンパ節郭清

 また、その他の治療選択として以下の治療が検討されます。

  • 準広汎子宮全摘出術/ 両側付属器摘出術
  • 広汎子宮全摘出術/ 両側付属器摘出術
  • 大網切除術
  • 腫瘍減量術

手術で完全切除ができた場合は、術後療法として化学療法が選択されます。また、完全切除ができなかった場合は、局所制御あるいは症状緩和を目的に放射線治療が検討されます。

手術不可能な患者さんに対しては、化学療法、放射線治療、支持療法のいずれかが選択されます。

推定ステージ3・4の治療選択
推定ステージ3・4の治療選択
出典:日本婦人科腫瘍学会編.子宮体がん治療ガイドライン2023年版.フローチャート3より作成

再発リスクによる術後治療選択

 再発リスクが低い患者さんは経過観察、中高リスクの患者さんは化学療法が選択されます。子宮体がん治療ガイドライン2023年版では、初回手術で病変が完全摘出された再発リスクが中または高い患者さんでは、ドキソルビシン/シスプラチン療法 (AP療法)が推奨され、パクリタキセル/カルボプラチン療法 (TC療法)も治療選択の1つされています。

 残存病変がある進行がんで類内膜がんG1あるいはエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体陽性の患者さんに対しては、黄体ホルモン療法が検討されます。

再発リスクによる術後治療選択
再発リスクによる術後治療選択
出典:日本婦人科腫瘍学会編.子宮体がん治療ガイドライン2023年版.フローチャート4より作成

妊孕性温存療法の治療選択

 妊孕性温存療法の対象となるのは、子宮内膜胃型増殖症か子宮内膜に限局する類内膜がんのグレード1の患者さんです。妊孕性の温存を希望する患者さんに対しては、組織診、画像検査などの結果を総合的に診断し、妊孕性温存療法が可能かどうかが慎重に検討されます。

 妊孕性温存療法が可能と判定された場合は、子宮内膜全面掻把を含む黄体ホルモン療法が行われます。効果があれば経過観察が行われ、効果がなければ子宮全摘出術が行われます。黄体ホルモン療法後に再発した場合は、子宮全摘出術が推奨されますが、妊孕性の温存を強く希望する患者さんに対しては、厳重な管理のもと再度黄体ホルモン療法が考慮されます。

※妊孕性は、妊娠に必要な臓器や機能による「妊娠する力」のことです。

妊孕性温存療法の治療選択
妊孕性温存療法の治療選択
出典:日本婦人科腫瘍学会編.子宮体がん治療ガイドライン2023年版.フローチャート6より作成

子宮体がんの手術

 子宮体がんでは、主な治療として手術が行われます。ステージなど患者さんの状態にあわせて、さまざまな手術法が選択されます。

単純子宮全摘出術

 子宮体部を全摘出する手術で、付属器の卵巣や卵管を含めて摘出することもあります。

単純子宮全摘出術
単純子宮全摘出術

広汎子宮全摘出術

 子宮、卵管、卵巣、腟壁、膣の周辺にある「基靭帯」を含めた広範囲で切除する手術です。骨盤内のリンパ節や腹部大動脈の周囲にあるリンパ節を同時に切除することもあります。

広汎子宮全摘出術
広汎子宮全摘出術

準広汎子宮全摘出術

 単純子宮全摘出術と広汎子宮全摘出術の中間的な手術です。単純子宮全摘出術に加え、膀胱と子宮をつなぐ靭帯の一部の切除や、子宮頸部の周囲組織と腟壁を切断します。リンパ節の転移があれば、リンパ節郭清も行われる場合があります。

準広汎子宮全摘出術
準広汎子宮全摘出術

拡大単純子宮全摘出術

 腟側の病変の一番端と正常細胞との距離をとるために、単純子宮全摘出術に加え、腟壁を切除する手術です。

付属器摘出術

 子宮に付属する臓器である卵巣と卵管を摘出する手術です。

付属器摘出術
付属器摘出術

後腹膜リンパ節郭清

 腹部大動脈の周囲にあるリンパ節を切除して組織検査を行い、リンパ節への転移を調べるとともにステージを確定するための手術です。

後腹膜リンパ節郭清
後腹膜リンパ節郭清

大網切除術

 大網は、大腸や小腸を覆う網状の脂肪組織です。大網に転移が認められる場合は、一般的に大網切除が行われます。転移がない場合でも、以下の条件に当てはまる場合は、大網切除が検討されます。

  • 類内膜がんグレード3
  • 子宮の深部までの浸潤
  • 手術中に子宮外の異常が判明
  • 手術中の腹腔細胞診で陽性
大網切除術
大網切除術

腹腔鏡下子宮全摘出術

 腹腔鏡下子宮全摘出術は、推定ステージ1のうち再発リスクが低い患者さんに対して推奨される手術です。おなかに複数個所小さく切開し、手術器具を挿入して行われます。切除範囲は、開腹して行う単純子宮全摘出術や付属器摘出術と同様です。

腫瘍減量術

 腫瘍減量術は、骨盤を超えてがんが広がっている場合や、遠隔転移がある場合など、子宮全摘出術のほかに、腹腔内にある腫瘍をできる限り取り除く手術です。

子宮体がんの術後治療

 初回治療の手術後は、ステージと再発リスクに基づき治療が選択されます。ステージ1で再発リスクが低い患者さんに対しては、経過観察が行われます。再発リスクが中・高の患者者さんに対しては、術後補助療法として化学療法や放射線治療のいずれかが行われます。欧米では、局所再発を減少させるため全骨盤照射が主に術後補助療法として行われています。しかし、複数の臨床試験の結果では、骨盤内再発は減少しますが生存率は向上しないとされているため子宮体がん治療ガイドライン2023年版では、術後補助療法として化学療法が推奨されています。

術後化学療法

 子宮体がんに対する効果が期待できる薬剤は、シスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、エピルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、フルオロウラシルなどです。

 再発リスクが中・高の患者さんに対しては、ドキソルビシン+シスプラチン併用療法(AP療法)が推奨されています。

術後放射線治療

 子宮体がんの術後放射線治療では、全骨盤外照射と膣内照射が、再発リスクにあわせて単独もしくは併用して行われます。骨盤内再発を減少させるための治療選択肢の1つとして考慮されます。

子宮体がんの妊孕性温存療法

 子宮体がんは、女性ホルモンの1つエストロゲンの刺激が、がんの増殖にかかわっていることが多いため、エストロゲンの作用をもつ、プロゲステロン(黄体ホルモン)を投与する黄体ホルモン療法が行われることがあります。子宮体がんの妊孕性温存療法では、黄体ホルモン療法が考慮されますが、再発リスクもあり、患者さんの病態や希望を総合的に判断し慎重に行われます。

 黄体ホルモンによる治療期間は平均6か月、効果が表れるまでの期間は平均3か月とされているため、治療開始後3か月間で子宮内膜組織検査が行われ、組織検査で異常があれば、さらに3か月間の黄体ホルモン療養を行うことが考慮されます。6か月の治療終了後、再度組織検査による効果の確認が推奨されています。6か月後の組織検査で異常が認められれば手術が行われます。検査で異常が認められなければ、妊娠が許可されます。妊娠までの期間は、3~4か月ごとに排卵前に子宮内膜組織検査を行うことが推奨されています。

 黄体ホルモン療法では、脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓症などの重篤な血栓症リスクがあるため、注意が必要とされています。血栓症リスクの高い患者さんは以下の通りです。

  • 手術後1週間以内
  • 脳梗塞、心筋梗塞、血栓静脈炎などの血栓性疾患の合併、または既往歴
  • 動脈硬化の合併
  • 心臓弁膜症、心房細胞、心内膜炎、重篤な心不全などの心疾患の合併
  • 黄体ホルモン、卵胞ホルモン、副腎皮質ホルモンなどホルモン剤を投与中
  • 重篤な肝障害の合併

 黄体ホルモン療法を行った場合は、3か月に一度、子宮内膜組織検査や経腟超音波検断層法検査による経過観察が行われます。

参考文献
日本婦人科腫瘍学会編.子宮体がん治療ガイドライン2023年版.金原出版

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