POEMS症候群
※これは一般的な情報です。患者さん個々の病態や治療法は異なるため、不明な点は必ず主治医にご確認ください。
POEMS症候群の全体像について、疾患の概要から治療法まで紹介します。
疾患の概要と特徴
POEMS症候群は、末梢神経障害、手足のむくみ、皮膚の変化(色素沈着、剛毛、血管腫)、胸水・腹水など、全身にさまざまな症状が起こる多発性骨髄腫の類縁疾患の1つです。
名称の由来
欧米では主な症状の頭文字をとって以下のように呼ばれています。
- 多発神経炎(Polyneuropathy)
- 臓器腫大(Organomegaly)
- 内分泌障害(Endocrinopathy)
- M蛋白/Mタンパク質(M-protein)
- 皮膚症状(Skin changes)
日本では、報告者の氏名をとって「クロウ・深瀬症候群」とも呼ばれます。
原因について
免疫グロブリンを産生する形質細胞の異常と、異常な形質細胞増殖に伴って産生される特殊なタンパク質「血管内皮増殖因子(VEGF)」が関わっていると考えられていますが、まだ十分にはわかっていません。
疫学データ
2012年4月~2015年3月に行われた全国調査では、国内患者数は392人、罹患率は10万人に0.3人と報告されています。発症に地域差はなく、男性は女性に比べて1.5倍多く、発症時年齢は20歳代~80歳代で、平均年齢は約54歳でした。
症状と経過
主要症状
POEMS症候群では、末梢神経障害による手や足先のしびれや脱力などの症状が起こります。症状が進行するにつれ、皮膚の色素沈着や手足のむくみなどが起こります。
その他の症状
胸水や腹水が見られたり、男性では女性化乳房から発症することもあります。
診断基準
POEMS症候群の疑いがある場合は、末梢神経障害や骨病変の検査、血液検査(Mタンパク質の検出)、血管内皮増殖因子を調べる検査が行われます。
診断の条件
2つの必須大基準に加え、その他の大基準が1つ以上、かつ小基準が1つ以上を満たす場合に診断されます。
必須大基準
- 多発神経炎(脱髄性障害が典型的)
- モノクローナル形質細胞増殖(ほぼ常にλ型M蛋白)
その他の大基準(1つ以上を満たす)
- キャッスルマン病
- 骨硬化性病変
- VEGF上昇
小基準
- 臓器腫大(脾腫、肝腫、リンパ節腫脹)
- 血管外体液貯留(浮腫、胸水、腹水)
- 内分泌異常(副腎、甲状腺、下垂体、性腺、副甲状腺、膵臓)
- 皮膚異常(色素沈着、多毛、糸球体様血管腫、先端チアノーゼ、顔面紅潮、爪床蒼白)
- 乳頭浮腫
- 血小板増多/多血症
その他の症状・徴候
ばち指、体重減少、多汗、肺高血圧/拘束性肺疾患、血栓性素因、下痢、ビタミンB12低値などが認められることがあります。
※キャッスルマン病は、1950年代にマサチューセッツ総合病院のキャッスルマンらによって最初に記載された難治性のリンパ増殖性疾患です。
治療アプローチ
治療方針の決定
POEMS症候群の治療選択では、自家造血幹細胞移植の適応があるかどうかが判定されます。
局所治療
限局性の形質細胞腫が存在する場合は、放射線照射もしくは外科的切除の有効性が報告されています。
血栓予防
POEMS症候群では血小板数の増多や血小板の活性化が認められるため、初発時から脳血管障害などの血栓事象が懸念されます。そのため、アスピリンなどの抗血小板薬の併用が選択されることがあります。
移植適応の判定
自家造血幹細胞移植の判定基準は、多発性骨髄腫に準じた移植適応基準が用いられますが、末梢神経障害によって移植前の全身状態が不良でも、移植後の神経症状改善により全身状態の改善が期待される場合には不適格とせず、慎重に判断することが必要とされています。
移植適応ありの場合の治療
自家造血幹細胞移植前に新規薬剤などによる寛解導入療法が行われ、全身状態の改善、血清VEGF値の低下の後に自家末梢血幹細胞採取し、移植を行うことが望ましいとされています。
寛解導入療法として以下が選択されます。
- TD療法(サリドマイド+デキサメタゾン)
- LD療法(レナリドミド+デキサメタゾン)
- BD療法(ボルテゾミブ+デキサメタゾン)
※TD療法以外は、日本では保険適用外となっています。
移植適応なしの場合の治療
以下の治療が検討されます。
- TD療法(サリドマイド+デキサメタゾン)
- LD療法(レナリドミド+デキサメタゾン)
- BD療法(ボルテゾミブ+デキサメタゾン)
- MD療法(メルファラン+デキサメタゾン)
治療選択の考慮事項
- 患者さんの年齢と全身状態
- 末梢神経障害の程度
- 臓器障害の範囲
- 移植適応の有無
- 保険適用の状況
- 血栓リスクの評価
【重要事項】
- 本情報は一般的な概要であり、個々の患者さんの状態によって最適な治療法は大きく異なります。
- 治療方針は、必ず専門の医師と最新の診療ガイドラインに基づいて決定されます。ご不明な点は、主治医にご確認ください。

