若年性乳がんの特徴と治療 特に気をつけたい妊娠、授乳期

高橋麻衣子先生
監修:慶應義塾大学医学部 腫瘍センター助教 高橋麻衣子先生

2017.10 取材・文:柄川昭彦

  35歳未満のいわゆる若年性乳がんの患者さんでは、この年代特有のライフイベント(結婚、妊娠、出産など)を考慮する必要があり、患者さん個別の治療選択が大切です。若年性乳がんとは、どんなものなのか、治療選択は?どう向き合えばいいのかを乳がんの特徴や治療、検診などの重要性などを解説します。

若年性乳がんの特徴と年代特有のライフイベントに関わる問題点

 乳がんの患者さんが多い年代は40代~50代ですが、20代や30代で乳がんを発症する人もいます。35歳未満の人の乳がん患者さんを、「若年性乳がん」と呼んでいます。若年性乳がんは決して多くはなく、乳がん全体の2.7%にすぎません。

 若年性乳がんは、両側性乳がんが少ない、乳がんの家族歴がある、BMIが小さいという特徴があります。また、検診より自己発見が多く、腫瘍の大きさが大きい、皮膚症状を伴うことは少ないが、炎症性という特徴が多くみられます。乳がんのタイプとしては、トリプルネガティブが多く、発見されるステージは、0期1期は少なく、2期3期の割合が高い、4期は変わりません。

 若年性乳がんの治療には、この年代ならではの難しさがあります。これから妊娠・出産を考えている人もいますし、妊娠中の人も、出産を終えて授乳中の人もいますので、この年代ならではのライフイベントを考慮しながら治療する必要があります。

 若年性乳がんの定義は34歳以下となっていますが、妊娠・出産に関係する問題を抱えた乳がんの患者さんというと、40歳前後まで広がります。以前は35歳以上の年齢で、これから妊娠・出産を希望する人はあまり多くありませんでしたが、現在は30代後半でも決して珍しくありません。34歳以下の乳がんは全体の2.7%ですが、若年性乳がんと同様の問題を抱えた40歳前後までの患者さんを含めると、対象者はもっと多くなります。

 若年性乳がんは、がんが大きくなってから発見される傾向があります。腫瘍の大きさを比較したデータでは、非若年性乳がんの大きさが平均2.5cmなのに対し、若年性乳がんは平均2.9cmとなっています。大きくなってから見つかるため、転移などが起きていることが多く、発見時の病期(ステージ)も、若年性乳がんの方が進んでいる傾向があることがわかっています。当然、それだけ治療も難しくなってしまいます。

 大きくなってから見つかる最大の理由は、この年代の女性が乳がん検診の対象となっていないことです。日本の検診制度では、40歳以上の女性を対象に、マンモグラフィーによる検査を2年に1回行うことになっています。当然、若年性乳がんは乳がん検診から抜け落ちてしまうわけです。

 若年性乳がんの治療は、基本的には通常の乳がんの治療と同じです。手術が可能な乳がんであれば根治を目指して手術を行い、必要に応じて薬物療法や放射線療法を加えます。遠隔臓器に転移があって根治を目指せない場合には薬物療法が行われます。

 また、若年性乳がんには、トリプルネガティブ(ホルモン受容体も陰性、HER2も陰性のタイプ)や、HER2タイプ(ホルモン受容体は陰性、HER2は陽性のタイプ)が多い傾向にあります。これらのタイプの乳がんの治療には、ホルモン療法は効果がないため、抗がん剤を使用します。

若年性乳がんと診断され、これから妊娠・出産を希望する場合の治療

 若年性乳がんの患者さんの中には、これから妊娠・出産を考えている人もいます。その場合、根治的な治療が可能な患者さんであれば、まず乳がんの治療を行い、それが終了してから妊娠・出産ということになります。乳がんの治療としては、手術と、必要に応じて再発を防ぐための薬物療法が行われます。

 手術に加えられる薬物療法は、乳がんのタイプにあわせた治療が選択されます。ホルモン受容体陽性の乳がんなら、手術後5年~10年間、ホルモン療法が行われます。HER2タイプなら、抗HER2薬(ハーセプチンなど)と抗がん剤を併用します。期間は術後1年間です。トリプルネガティブなら、抗がん剤治療が行われます。期間は術後3か月~6か月です。

 ホルモン療法では女性ホルモンの分泌を抑えますし、使用する薬によって胎児に奇形が生じる可能性もあるため、ホルモン療法を行っている間の妊娠・出産は勧められません。ホルモン受容体陽性の乳がんは、術後5年を過ぎても再発するケースが少なくないため、ホルモン療法を10年間続けることが勧められています。そのため、30代でがんが見つかっても、治療が終了するのは40代になるため、妊娠・出産が難しくなるケースもあります。

 抗がん剤治療を行うと、卵巣機能が停止し、生理が止まります。治療が終了した後、すぐに生理が戻る人もいますが、戻るまでに時間がかかる人もいます。中には戻らない人もいます。抗がん剤治療を行う場合には、妊娠できなくなる可能性もゼロではないことを理解しておく必要があります。

 そこで、手術後の薬物療法を開始する前に、卵子を採取し、凍結保存しておく方法もあります。パートナーがいる場合なら、受精卵を凍結保存することもできます。出産に至る可能性は、受精卵を保存した場合のほうが高くなります。ただ、受精卵の凍結保存に関しては、その後、離婚した場合に使用できなくなるリスクも考えなければなりません。そのため、受精卵の凍結に関しては、パートナーを含めてよく話し合っておくことが大切です。

 遠隔臓器への転移があり、根治的な治療を目指せない乳がんであれば、基本的には妊娠・出産はあきらめることになります。薬物治療が治療の中心となりますが、薬物療法を行っていると妊娠できないためです。

妊娠の時期と受け取ることができる検査・治療

前期中期後期
検査超音波検査,針生検,マンモグラフィー
造影剤を使用しないCT検査,MRI検査
CT造影検査
MRI造影検査×(△)×(△)×(△)
手術
抗がん剤治療アンスラサイクリン系薬剤・アルキル化薬×
タキサン系薬剤,メトトレキサートなど×××
分子標的治療トラスツズマブ×××
ホルモン療法×××
放射線療法×××

○:注意は必要だが受けることができる △:危険性と利益を考えて慎重に行う × :受けることは勧められない
出典:患者さんのための乳がん診療ガイドライン2016年版より

若年性乳がんの妊娠中、授乳中の治療選択

 妊娠中に乳がんが発見された場合でも、乳がんの手術は問題なく行え、通常の麻酔薬も使用可能です。ただ、妊娠中は、ホルモン療法は行えません。妊娠中に使用できる乳がんの治療薬も限られるため、術後治療の内容は制限されます。

 抗HER2薬は妊娠中には使えないので、妊娠・出産は治療後となります。抗がん剤は、薬の種類によっては妊娠中でも使用することができます。使用できるのは、アンスラサイクリン系抗がん剤で、妊娠前期には使えませんが、妊娠中期と後期には使用することができます。これから妊娠・出産を希望している人であれば、抗がん剤治療が終了してから妊娠を考えることになります。タキサン系抗がん剤もよく使われますが、これは妊娠中には使用できません。

 リンパ節転移がある乳がんの場合、通常の術後治療では、アンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤を、順次併用あるいは同時併用するのが標準治療となっています。ただ、患者さんが妊娠している場合、タキサン系抗がん剤は使えません。そこで、妊娠中にアンスラサイクリン系抗がん剤で3か月間の治療を行い、出産後にタキサン系抗がん剤による治療を3か月間行う、という治療が行われることもあります。

 放射線療法は、胎児がおなかにいる間は行うことができませんので、放射線療法が必要な場合には、出産後に受けることになります。

 授乳期に乳がんが発見された場合には、人工乳に切り替えて乳がんの治療を行います。乳がんがあっても授乳することに問題はありませんが、薬は母乳に移行するので使用することができません。そこで、ホルモン療法を行う場合も、抗HER2薬を使用する場合も、抗がん剤を使用する場合も、人工乳に切り替える必要があります。

 若年性乳がんは、治療選択を増やすためにも早期に発見することが大切

若年性乳がんの治療は、なるべく早期に発見することによって治療の選択肢が増え、その分、妊娠・出産が可能になることもあります。実際は、年代的に乳がん検診の対象となっていないことも関係していますし、妊娠中や授乳期はがんができていても気づきにくいということもあります。

 そこで、これから妊娠・出産を考えている人は、乳がんの検診を受けることが勧められます。検査の方法には、マンモグラフィーと超音波検査があります。マンモグラフィーは白く写る乳腺と黒く写る脂肪のコントラストで異常を発見する検査ですが、若い年代では乳腺が多く脂肪が少ないため、コントラストがなく発見しにくくなります。そこで、マンモグラフィーだけでなく、マンモグラフィーと超音波検査の両方を受けるようにするとよいでしょう。

 また、日頃から自分で触診するようにし、何かおかしと感じられたときは、ためらわずに乳腺科のクリニックなどを受診するようにします。こうしたことも、なるべく早期に発見するためには必要なことです。

 妊娠中は乳腺が張ってくるため、自分で気づくのは難しくなりますし、マンモグラフィーなどの画像検査でも見つけにくくなります。妊娠する前に検診を受けておくことが勧められるのは、そのためでもあります。ただ、妊娠中であっても、受診さえすれば、専門の医師が大きながんを見逃すことは考えられません。おかしいと感じたら、ぜひ受診してください。針生検で組織を採取して調べることは、妊娠中でも問題なく行うことができます。

 授乳期もがんに気づきにくいですが、授乳した直後は乳房がしぼんだ状態になるので、このタイミングで触診する習慣をつけておくとよいでしょう。しこりがあること自体は問題ありませんし、大きくなったり小さくなったりするしこりも問題ありません。あやしいのは、いつも同じところにあるしこりや、少しずつ大きくなっているしこりです。また、乳汁に血液が混じる場合なども要注意です。このような場合も、受診してください。

 若年性乳がんは発見が遅れがちですが、気を付けていれば早期に発見することができます。そして、早期に発見することが、患者さんの命を救うことにも、妊娠・出産の可能性を高めることにも役立ちます。

プロフィール
高橋麻衣子(たかはし まいこ)

2000年 慶応義塾大学医学部外科学教室入局
2006年 聖母会聖母病院外科
2008年 慶応義塾大学医学部外科学教室 助教
2010年 慶應義塾大学病院 腫瘍センター助教