乳がんの発症や予後に影響を与えるライフスタイル

2018.7 取材・文:大場真代

 肥満や運動、喫煙、アルコール飲料の摂取といったライフスタイルが、乳がんの発症や予後に影響を与えることがわかってきました。さらに「合併症・治療薬」の乳がん発症への影響も含め、最新の研究結果をもとに、乳がんの発症や予後との関連を解説します。

乳がんの予防-閉経後の肥満と運動

 近年、ライフスタイルとがんの発症リスクの関連について、世界でさまざまな研究が行われています。国際的な評価として、世界がん研究基金・米国がん研究協会の「食物・栄養・運動とがん予防」があります。これは、さまざまな研究によって得られたエビデンスに基づき、予防効果の確からしさを評価するものです。乳がんについては2017年に更新され、さまざまな要因が乳がんの発症に関わることがわかってきました。また、日本人を対象とした研究の評価は、国立がん研究センター研究開発費による研究班(がん予防研究班)が行っています。また、2018年4月に改定された「乳癌診療ガイドライン2018」(発行:日本乳癌学会)では、さまざまな研究のレビューに基づく最新の評価が掲載されています。乳がんの発症リスクについては、主にこれら3つの評価を見ながら、どのようなライフスタイルが乳がん発症と関わりがあるかを紹介していきます。

乳がん発症と生活習慣関連要因のまとめ

国際的な評価 がん予防研究班 乳癌診療ガイドライン
肥満(閉経後) 確実↑ 確実↑ 確実↑
肥満(閉経前) ほぼ確実↓ 可能性あり↑ 可能性あり↑
飲酒 確実↑ 証拠不十分 ほぼ確実↑
身体活動(閉経後) ほぼ確実↓ 可能性あり↓ ほぼ確実↓
イソフラボン 証拠不十分 可能性あり↓ 可能性あり↓
喫煙 可能性あり↑ 可能性あり↑ ほぼ確実↑
受動喫煙 証拠不十分 可能性あり↑ 可能性あり↑

出典:世界がん研究基金・米国がん研究協会「食物・栄養・運動とがん予防」、国立がん研究センター研究開発費による「根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」研究班(がん予防研究班)乳癌診療ガイドライン(2)「疫学・診断編」2018年版をもとに作成

リスク要因(確実)
リスク要因(ほぼ確実)
リスク要因(可能性あり)
予防要因(ほぼ確実)
予防要因(可能性あり)
※□証拠不十分

 まず、エビデンスに基づく判定では「確実」「ほぼ確実」「可能性あり」「証拠不十分」「大きな関連なし」の順で内容が評価されています。3つとも「確実」と評価されたリスク要因は、閉経後の肥満です。閉経後の肥満は、国際的な評価と国内評価どちらにおいても、乳がんのリスク要因としています。

 閉経前の肥満については、国内評価ではリスク要因の「可能性あり」とされていますが、国際的な評価では、逆に、乳がんの予防要因として「ほぼ確実」と評価されています。欧米人を対象とした研究では、肥満が閉経前の乳がんの予防要因の可能性があると評価していますが、日本人やアジア人を対象とした研究では、肥満がリスク要因となる可能性ありと逆の評価になっています。日本人を対象とした7つのコホート研究の解析では、閉経前女性の中でもBMIが30以上の人は乳がんの発症リスクが上がることがわかっています。

 また、成人後の体重増加が乳がんのリスクを増加させるという海外の研究結果もあります。日本人を対象とした研究においても、閉経後の女性では成人後の体重増加によって乳がんになりやすいことがわかっています。そのため、閉経後はもちろん、成人後は適正体重の維持を心がけることが大切です。

 肥満と関連して、身体活動いわゆる運動は、乳がんの予防に効果があることがわかってきています。とくに閉経後では、リスクを下げることが「ほぼ確実」とされています。日本人を対象とした研究では、余暇での運動の頻度が多いほど乳がん発症リスクが低いという結果が示されています。閉経後に体重が増えた人はもちろん、適度な運動を心がけましょう。

アルコール飲料の摂取と喫煙にも注意

 飲酒の国際的な評価は、閉経後のリスク要因として「確実」、閉経前でも「ほぼ確実」とされています。

 アルコール飲料に含まれるエタノールと、その代謝産物のアセトアルデヒドには、発がん性があることが報告されています。海外の研究から、閉経前でエタノール摂取10gあたり5%のリスク増加、閉経後でエタノール摂取10gあたり9%のリスク増加が示されています。

 日本人での研究はまだ少なく、がん予防研究班の評価では、飲酒と乳がんの関連は「証拠不十分」となりました。乳癌診療ガイドラインでは、海外の研究結果も踏まえ、閉経前ではアルコール飲料の摂取によってリスクが増加する可能性があり、閉経後では乳がんリスクの増加は「ほぼ確実」としています。いずれにしろ、飲酒をする場合には節度を守ることが大切です。

 喫煙は、乳がんを含めたさまざまながんのリスクとなります。国際がん研究機関(IARC)は、喫煙について、肺がんをはじめとした多くのがんに対して「発がん性あり」と評価しており、日本人を対象とした研究でも、乳がんリスクとの関連が示されています。乳癌診療ガイドラインでは、喫煙により乳がん発症リスクが増加することは「ほぼ確実」、受動喫煙により乳がん発症リスクが増加する「可能性がある」としています。またがん予防研究班でも、喫煙および受動喫煙により乳がん発症リスクが増加する「可能性がある」としています。乳がんに限らず、さまざまながんのリスクを高める喫煙はやめ、受動喫煙を避けるようにしましょう。

イソフラボンの摂取が乳がんリスク減の可能性

 欧米の女性と比べて日本人の乳がん発症率が低いことから、日本人の生活習慣が注目されています。その中でも、大豆食品に含まれるイソフラボンが、乳がんのリスクを減少させる可能性があることがわかってきました。40~59歳の日本人女性約2万人を10年追跡調査した研究結果では、イソフラボンを多く摂取した人のほうが、乳がんのリスクが低い傾向が見られました。イソフラボンは、最近サプリメントなども多く販売されていますが、今回紹介した評価はあくまでも味噌汁や豆腐、納豆などの大豆食品から摂取した場合のものです。サプリメントの服用が乳がん予防につながるかどうかは、まだ十分にわかっていません。

 その他、乳癌診療ガイドラインで解説されている内容を紹介します。ガイドラインでは、CQ(クリニカルクエスチョン)※1、BQ(バックグランドクエスチョン)※2、FQ(フューチャーリサーチクエスチョン)※3ごとに、それぞれの解説が紹介されています。

乳癌診療ガイドライン2018年版
乳がん発症に関するその他の要因についてのBQ・CQ・FQ

BQ3 乳製品の摂取は乳癌発症リスクを減少させるか?
乳製品の摂取により乳癌発症リスクは減少する可能性が示唆されている。
BQ4 緑茶の摂取は乳癌発症リスクを減少させるか?
緑茶の摂取が乳癌発症リスクを減少させるかどうか結論付けられない。
BQ6 サプリメントの服用は乳癌発症リスクを減少させるか?
サプリメントの服用が乳癌発症リスクを減少させる十分な根拠はない。
BQ9 夜間勤務は乳癌発症リスクを増加させるか?
夜間勤務は乳癌発症リスクを増加させる可能性がある。
BQ10 電磁波は乳癌発症リスクを増加させるか?
電磁波の曝露が乳癌発症リスクを増加させるかどうかは結論付けられない。
BQ11 乳癌発症リスクに関連する心理社会的要因はあるか?
ストレス・ライフイベント・性格傾向と乳癌発症リスクとの関連性については結論付けることができない。

乳癌診療ガイドライン(2)「疫学・診断編」2018年版をもとに作成

乳がんの予後と生活習慣―再発・死亡のリスク要因と予防要因

 最近、乳がんと診断され、治療を行った後の患者さんの予後と生活習慣(ライフスタイル)に関しても研究が進んでいます。

 乳癌診療ガイドラインでは、乳がんと診断されたときに肥満だった患者さんの乳がん再発のリスク、乳がんによって死亡するリスクが高くなることは確実と評価しています。また、乳がんと診断されたときから肥満度が上昇した場合でも、再発・死亡リスクが高くなることはほぼ確実と評価しています。

 喫煙については、乳がん患者さんの再発リスクを増加させる可能性があり、死亡リスクを増加させることはほぼ確実だとされています。

 乳がんと診断された後に身体活動が高い女性では、乳がんによる死亡リスクが減少することが確実とされています。そのため乳癌診療ガイドラインでは、診断後の身体活動を高く維持することを強く推奨しています。

 イソフラボンの摂取については、食事によるイソフラボンの摂取が、乳がん患者さんの予後を改善する可能性があるとしています。

 乳がんの発症リスクでは「ほぼ確実」と評価していたアルコール飲料の摂取については、再発のリスクや死亡のリスクとは大きな関連がないと評価しています。

 乳がんの予後に影響を与える生活習慣としては、診断後に適度な運動を行い、適正な体重を維持し、禁煙、イソフラボンを含むバランスの良い食事を心がけることが大切でしょう。

生活習慣と予後の関連

要因アウトカムリスク減少リスク増加
身体活動(診断後)乳がん死亡・全死亡確実
肥満(診断時)再発・乳がん死亡・全死亡確実
肥満(診断後)再発・乳がん死亡ほぼ確実
喫煙乳がん死亡ほぼ確実
喫煙再発可能性あり
イソフラボン(診断後)再発・乳がん死亡・全死亡可能性あり
脂肪摂取(診断後)証拠不十分
乳製品証拠不十分
アルコール(診断前後)大きな関連なし

乳癌診療ガイドライン(2)「疫学・診断編」2018年版をもとに作成

乳癌診療ガイドライン2018年版
乳がん予後に関するその他の要因についてのBQ・CQ・FQ

BQ19 妊娠期・授乳期の乳癌は予後が不良か?
妊娠期の場合→妊娠期の乳癌が予後不良とは結論付けられない。
授乳期の場合→授乳期の乳癌の予後が不良であることはほぼ確実である。
CQ8 乳癌初期治療後の食事による脂肪摂取は乳癌患者の予後に影響を及ぼすか?
乳癌初期治療後の総脂肪摂取の増加が乳癌再発リスクを増加させるかは結論付けられない。
CQ13 乳製品の摂取は乳癌患者の予後に影響を及ぼすか?
乳製品により乳癌患者の再発リスクが増加する可能性は否定できないが、乳癌死亡リスクや全死亡リスクが増加する可能性は低い。
CQ14 心理社会的介入は乳癌患者の予後改善に有用か?
心理社会的介入が生存期間の延長をもたらすという根拠は認められない。
心理社会的介入はQOLの向上や抑うつ・不安の改善効果に対して一定の有効性を認める。

乳癌診療ガイドライン(2)「疫学・診断編」2018年版をもとに作成

糖尿病の既往、乳がん発症リスク増加が「ほぼ確実」

 その他、乳がんのリスクを上げる要因として、糖尿病を患っていることなどが報告されています。糖尿病の既往は、乳がん発症リスクを増加させることが「ほぼ確実」とされています。また、低用量経口避妊薬の使用も乳がん発症リスクを増加させる可能性があることなどが、乳癌診療ガイドラインでは報告されています。

乳癌診療ガイドライン2018年版
合併疾患・治療薬の乳がん発症に関するその他の要因についてのBQ・CQ・FQ

BQ16 スタチンの服用は乳癌発症リスクを減少させるか?
スタチンの服用が乳癌発症リスクを減少させるかどうかは結論付けられない。
CQ2 閉経後女性ホルモン補充療法は乳癌発症リスクを増加させるか?
有子宮女性への合成黄体ホルモンを用いたエストロゲン+黄体ホルモン併用療法では、長期投与により乳癌発症リスクを増加させる。
子宮摘出後女性へのエストロゲン単独療法では、短期投与においては乳癌発症リスクは増加しない。
FQ1 不妊治療における排卵誘発は乳癌発症リスクを増加させるか?
海外の検討では排卵誘発は乳癌発症リスクを増加させてはいないが、今後、日本人での検討が望まれる。

乳癌診療ガイドライン(2)「疫学・診断編」2018年版をもとに作成

 ライフスタイルと乳がんとの関連を中心に解説してきましたが、とくに、乳がんの予後に関する研究は、まだまだ発展途中です。乳がん患者さんについては、今回ご紹介した内容を参考にしつつ、何かに偏ることなくバランスの良い生活を心がけてみてはいかがでしょうか。

※1CQ(クリニカルクエスチョン)
→日常の臨床で医師が判断に迷うテーマのこと。それぞれのCQに対してエビデンスのシステマティック・レビューと推奨決定会議の結果に基づき解説している。
※2BQ(バックグランドクエスチョン)
→これまでのガイドラインで標準治療として位置づけられているテーマのこと。あるいは、本来はCQで扱う内容だが、古いデータしかないのでCQとは区別して解説している。
※3FQ(フューチャーリサーチクエスチョン)
→CQとして取り上げるにはデータが不足しているが、重要な課題だと考えられるテーマのこと。現時点での考え方を解説している。

プロフィール
岩崎 基(いわさき もとき)

1998年 群馬大学医学部卒業
2002年 群馬大学大学院医学研究科博士課程社会医学系公衆衛生学専攻修了
2002年 国立がんセンター研究所支所臨床疫学研究部リサーチレジデント
2004年 国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部研究員
2006年 国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部ゲノム予防研究室室長
2010年 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部ゲノム予防研究室室長
2013年 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター疫学研究部部長
2016年 国立がん研究センター社会と健康研究センター疫学研究部部長

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