乳房再建、自分にあった種類・方法・タイミングの選択とは

2018.7 取材・文:星野美穂

 乳房再建とは、乳がんの手術によって失ったり変形した乳房を、手術によって新しく作ることをいいます。シリコン製の乳房インプラント(人工乳房)を入れる人工物法や患者さん自身の身体の一部を用いる自家組織法、また、その2つを組み合わせた方法などがあります。
 以前から保険適用だった自家組織法に加え、2013年に乳房インプラントを使う人工物法も保険適用になりました。乳房再建法の選択の幅が広がり、より多くの乳がん患者さんに再建の道が開けたことになります。
 また、まだ保険適用ではありませんが、大腿などの脂肪を吸引して乳房に注入する脂肪注入といった新しい乳房再建術も登場しています。
 乳がんは早期発見が進み、治療も小さな切開創でがんを切除できる場合が増え、乳房再建の技術も変化しています。各再建術のメリットとデメリットを知り、選択することが重要です。

各種再建法のメリット・デメリット

 乳房再建の種類には、大きく分けて人工物法と自家組織法があります。

(1)人工物法(乳房インプラント)による乳房再建

図1 人工物法(乳房インプラント)

人工物法(乳房インプラント)1
人工物法(乳房インプラント)2
人工物法(乳房インプラント)3

 人工物法は、乳房を切除した大胸筋の下にシリコン製の乳房インプラント(人工乳房)を入れる方法です。現在使われている乳房インプラントはお菓子のグミのような弾力性があり、万が一破れても内容物が流れにくくなっています。乳房切除の手術時に乳房インプラントを入れることもありますが、たいていは、まずティッシュエキスパンダー(皮膚〔組織〕拡張器)という風船のようなバッグを先に入れます(図1)。その後、外来受診時に、生理食塩水を少しずつ加えてエキスパンダーを膨らませていきます。6か月程度をかけて皮膚と大胸筋を十分に伸ばした後、乳房インプラントと入れ替える手術を行います。

 人工物法による再建のメリットは、手術時間が短いため身体への負担が少ないことです。また、乳がん切除の創部以外の場所に傷ができることはありません。

 一方、デメリットとしては、感染が生じた場合には乳房インプラントを取り出さなくてはならないこと、また、長期のフォローアップが必要なことが挙げられます。厚生労働省は、専門医による10年間の経過観察が必要としています。その間にもし不具合がわかれば、乳房インプラントを入れ替えることになります。これは必ずしも、10年経ったら入れ替えなければならないということではありません。

 人工物法に適した患者さんは、乳房が比較的小さくて下垂が少ない人、乳がんの切除後に乳房の皮膚や大胸筋が残っている人などです。

 術後に胸部に放射線照射をした患者さんは、乳房インプラントによる再建が難しくなります。放射線を照射した皮膚は硬く伸びにくくなり、組織がもろく感染が起こりやすいためです。

 術後に補助化学療法を行う場合は、抗がん剤治療を優先させます。治療が終わって白血球の値が戻り、感染のリスクが落ち着いてから、エキスパンダーを膨らませていき、乳房インプラントと入れ替えます。内分泌療法中は、エキスパンダーの拡張と乳房インプラントへの入れ替え手術が可能です。

 患者さんの病状によって乳がんの手術方法や術後の薬物療法も異なるため、乳房再建を希望する方は、自分がどのような乳がん治療を受けるのか、また乳房再建術のタイミングはどのようになるのか、医師から詳しく説明を受けておくことが大切です。

(2)自家組織法による乳房再建

 自分の身体の他の部分の組織を使って乳房を作る方法が、自家組織法です。

 自家組織法が適しているのは、人工物を使用したくない人、乳房に柔らかさを求める人、また、放射線治療をすでに受けている人です。

 自家組織法のメリットとしては、温かみがある、触って柔らかいなど、乳房インプラントと比べると再建した乳房に違和感が少ないことが挙げられます。

 一方、デメリットとしては、手術時間が長くなること、組織を切り出したお腹や背中などに新たな傷ができること、入院期間が長いことがあげられます。

●腹直筋皮弁

腹直筋皮弁

 腹部の皮膚や脂肪、筋肉の一部を血管がつながっている状態で、胸部へ移植します。腹部の筋肉を移植するため、将来、妊娠・出産を希望する患者さんには適しません。

●広背筋皮弁

広背筋皮弁

 背中の皮膚、脂肪、筋肉を血管がつながった状態で胸部に移植する方法です。腹部の筋肉を使わないため、妊娠・出産を望む人にも適応します。背中の脂肪は腹部に比べて少ないため、乳房の比較的小さい人に向いています。

●穿通枝皮弁

穿通枝皮弁

 筋肉を通って脂肪や皮膚へつながる血管(穿通枝)を付けて皮膚と脂肪を切り離し、顕微鏡手術で胸部の血管に吻合して移植する方法です。吻合した血管が詰まり血流が途絶えると、壊死を起すことがあります。

●脂肪注入

 太腿や腹部などから吸引した脂肪を、注射器で乳房に注入する方法です。皮膚に数mmほどの小さな孔を開けて脂肪を吸引するので、大きな傷跡ができません。患者さん自身の脂肪だけで乳房を作ることもあれば、乳房インプラントや他の自家組織法と併用することもできます。

 手術後の痛みも少なく、入院期間もほかの自家組織法に比べると短くてすみます。乳房温存術と放射線治療を受けて生じた皮膚のひきつれやくぼみを修正して自然な膨らみを作る場合にも、脂肪注入は適しています。

 デメリットとして脂肪の生着率には個人差があり、予測が難しいことです。脂肪が生着しないと、壊死した脂肪がしこり(のう胞)として触れることがあります。生着率を高めるために、採取した脂肪から幹細胞を抽出し、それを脂肪組織と混ぜて作った幹細胞密度の高い移植用脂肪を移植する方法も考案されています。ただし、これはまだ限られた施設でしか行われていません。

 脂肪注入は、現在のところ保険が適用されないため、自費診療となります。

表 再建方法の比較

人工物法自家組織法
インプラント皮弁法脂肪注入
手術身体の負担小さい大きい小さい
手術時間2~3時間6~10時間2〜3時間
入院期間1~3日約2週間1~3日
乳房以外の創なし長い短い (数mm)
合併症感染、被膜拘縮皮弁の壊死、感染脂肪壊死によるのう胞形成
再建乳房の特徴やや硬く、温かみを感じにくい柔らかく温かい柔らかい
適さない場合放射線治療歴がある場合。皮膚や大胸筋が残されていない場合腹直筋皮弁では妊娠・出産の希望がある場合、腹部の手術歴がある場合痩せているため十分な脂肪が吸引できない場合
保険適用ありありなし

乳房再建のタイミングと手術回数

 乳房の再建を行う時期と手術回数は、それぞれの患者さんによって違いがあります。

 再建手術を行う時期には、「一次再建」と「二次再建」の2通りがあります。

 「一次再建」は、乳がんを切除するのと同時にエキスパンダーや乳房インプラントを入れたり、自家組織再建を行う方法です。「二次再建」は、乳がんの手術が終わって数か月から数年経って再発などがないことを確認してから行う方法です。

 乳房再建の手術回数については、「一期再建」と「二期再建」の2つがあります。「一期再建」は、1回の手術で再建を行う方法で、「二期再建」は、1回目の手術でエキスパンダーを入れて皮膚を十分に伸ばしてから、後日、改めて再建手術を行う方法です。

 このように時期と回数によって、再建法は分類されます。例えば、「一次一期再建」は、乳がん手術と同時に乳房インプラントや自家組織を使って乳房を再建する方法です。一度の手術で乳がんの切除と再建が終わりますが、手術時間は長時間になります。また、再建乳房の仕上がりを患者さん自身がイメージすることが難しいため、「仕上がりが希望と違っていた」ということが起こらないとも限りません。一次一期で乳房インプラントによる再建ができるのは、比較的小さな胸の人に限られます。

 ここ数年、全国の施設で増えてきている方法が、乳がん切除時にエキスパンダーを入れて、その後乳房インプラントに入れ替える「一次二期再建」です。

 二期再建では手術の負担は2回あるものの、エキスパンダーを拡張している間に仕上がりのイメージを作っていくことができます。健常な側の胸とのバランスや、乳房の形の希望などをじっくりと考え、医師と話し合う時間をもつことができるため、乳房インプラントを挿入するときに位置や大きさなどを調整できるというメリットがあります。

 

乳頭・乳輪の再建法

 乳がん治療によって乳頭・乳輪を切除した場合は、乳房の形が完成した後に、手術によって、乳頭と乳輪を作ることができます。

 乳頭の再建法には、皮膚を持ち上げて作る局所皮弁法と、反対側の乳頭の一部を切って移植する方法があります。乳頭の形や大きさなどから判断して選択します。

 乳輪の再建法には、太ももの付け根の皮膚を一部切り取って移植する方法と、医療用の刺青を使う方法があります。

 手術時の麻酔は、局所麻酔、または全身麻酔になります。入院期間も、1~2日の入院が必要な場合や日帰り手術など、方法によって異なります。事前にしっかりと説明を聞き、自分に適した方法を選択することが大切です。

乳房再建後のケア

 乳房再建術の方法によって、手術後の下着や運動を開始してよい時期は異なります。例えば人工物法で行った場合には、手術後の数か月間はワイヤー入りのブラジャーは勧められませんが、運動は手術から1、2か月程度で再開できます。日常生活や仕事への復帰は、乳房再建を担当した主治医と相談しながら進めていきます。

 

乳房再建は、乳腺外科と形成外科の連携が大切

 乳房再建は、乳がんの治療を担当する乳腺外科医と、再建を担当する形成外科医の連携が重要です。乳がん治療の進行状況や、患者さんの身体の状態についての情報を綿密に共有しながら行わなければなりません。また、形成外科医が再建のための高い技術をもっていることも大切になります。

 そのため、乳房再建を実施できる施設や医師の基準が、学会などにより定められています。エキスパンダーや乳房インプラントを使った乳房再建の実施施設は、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会のホームページで検索することができます。

 乳房再建は、乳がんの手術から何年経ってからでも行うことができます。 「いまは子育てで忙しくて時間が取れない」「仕事にできるだけ早く復帰したい」など患者さんそれぞれが優先したいことは異なります。乳がんの切除手術のときには決心できなくても、治療がひと段落付いてから時間をかけて考えることができます。まずは再建手術の話だけでも聞いてみたいという人の診察も形成外科では行っています。迷っている人は形成外科の外来を受診してみることをおすすめします。

 満足度の高い乳房再建ができるためには、自身の考えや希望を形成外科医に伝えることが重要です。形成外科医と一口に言っても、それぞれに専門とする領域が異なります。一人の形成外科医の話だけでなく、セカンドオピニオンを聞くことも必要です。自身の希望を伝えられる相性のよい形成外科医師を探して、自分らしい乳房再建手術を受けることができること、これが鍵となります。

プロフィール
淺野裕子(あさの・ゆうこ)

1990年 産業医科大学医学部卒業
1992年 東京大学医学部形成外科学教室
1995年 武蔵野赤十字病院形成外科
1997年 東京大学付属病院形成外科
1998年 国立国際医療センター形成外科
2000年 同愛記念病院形成外科
2008年 セルポートクリニック横浜
2011年 帝京大学医学部 形成・口腔顎顔面外科
2013年 亀田総合病院乳腺科部長代理(乳房再建担当)
2017年 亀田総合病院乳腺科部長(乳房再建担当)

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