検査・診断
大腸がんの疑いが…と医師にいわれたら、どんな検査を受け、診断が行われるのかを解説します。
大腸がんの確定”前”検査
大腸ポリープや早期の大腸がんでは、便潜血検査で陽性にならないこともあります。また、大腸の始まり部分である盲腸部分や上行結腸・横行結腸部分では、便は水分が多く含まれており柔らかいため、こうした部分にポリープや大腸がんがあっても、便がひっかかることによる出血や痛みなどの症状が出ることはあまりなく、発見が遅れることもあります。
定期健診や大腸がん検診で受けた便潜血検査で、大腸がんの疑いがあるといわれた人や血便や下血などの自覚症状がある人は、早期に精密検査が必要です。大腸がんの精密検査では、病変の組織を採取して病理診断が行われ、確定診断のために大腸内視鏡検査が行われます。
大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査は、長いファイバースコープを肛門から挿入して行われます。直腸から盲腸まで大腸全体をリアルタイムに見ながら調べることができる検査です。
ポリープや潰瘍などの病変が見つかった場合、病変の広がりや、表面が隆起あるいは陥没しているのかなどの形状をより精密に調べることができます。大腸内視鏡は、さまざまな器具を用いることができるため、病変の観察だけにとどまりません。例えば、発見が困難な凹凸のない病変でも色素を使って見つけることもできます。また、ポリープの切除を行ったり、病変を採取して組織検査(生検)を行うこともできます。採取したポリープや病変の組織を調べることで、良性か悪性かを判定したり、内視鏡による治療が可能な早期のがんと手術が必要ながんなどとの判定も行えます。
便潜血検査で陽性になるとほとんどの場合、大腸内視鏡検査が行われます。大腸内視鏡検査を受ける前には準備が必要で、検査の前日から下剤を服用し、当日多量の腸管洗浄液を飲みます。正確で安全に検査を受けるために、腸内にある便を排泄し切る必要があるからです。
注腸造影(X線)検査
注腸造影(X線)検査は、肛門からバリウムと空気を入れて大腸を膨らませてX線で画像撮影を行う検査です。大腸の形や大きさ、粘膜の様子など大腸全体の検査ができるため、腫瘍による腸管の変形や粘膜の異常などを見つけることができます。注腸造影(X線)検査は、腸が重なっている盲腸、直腸、S状結腸などでは、病変を見逃すリスクもありますが、癒着などが原因で大腸内視鏡検査が困難な場合に行われることがあります。
CTコロノグラフィ(大腸3D-CT)
CTコロノグラフィ(大腸3D-CT)検査は、肛門から炭酸ガスを注入してCTで画像撮影する検査で、大腸の内部や全体の形状を、大腸内視鏡でみたように画像化することができます。この検査で大腸がんの疑いとなった場合、大腸内視鏡検査が行われます。
大腸がんの確定”後”検査
がんと確定診断された場合、がんの進行度や治療方針を決めるための検査が行われます。がんの広がりや浸潤度などを調べるため、CT検査、MRI検査、PET検査などが行われます。
CT検査、MRI検査
CTやMRI検査は、大腸がんと周辺臓器との位置関係や転移などを調べるために行われます。CTはX線、MRIは磁気を使って画像撮影されます。
PET検査
がん細胞は、盛んに分裂をするため正常細胞より多くのエネルギーを必要とし、エネルギー源としてブドウ糖を多く取り入れる性質があります。この性質を利用し、ブドウ糖によく似た薬剤を注射して特殊なカメラで全身のがんを一度に撮影し画像化するのがPET検査です。この検査は、小さいがんやエネルギーを必要としていないあまり活発ではないがんなどは見つけられない可能性があるため、単独で行われることはあまりありません。PET検査単独では見落とされやすいがんも検出するには、がんの位置を正確に診断できるCT検査と合わせて行われる「PET/CT検査」が有効な場合もあります。PET/CT検査は、ほかの検査で、転移や再発の診断ができない場合に行われることがあります。
大腸がんの遺伝子検査
大腸がんの遺伝子検査は、最適な化学療法の薬を選択するためのKRAS遺伝子検査とBRAF遺伝子検査、および、遺伝性大腸がんを調べる検査があります。
KRAS遺伝子検査
KRAS遺伝子検査は、最適な化学療法を選択するために行われます。KRAS遺伝子に変異があるかないかで、効果が期待できる薬が異なるためです。大腸がんでは、EGFRを標的とした分子標的薬が使われますが、KARS遺伝子変異がなければ(野生型)、抗EGFR抗体薬の効果が期待できます。逆にKRAS遺伝子に変異がある場合は、抗EGFR抗体薬の効果が期待できないため、ほかの抗がん剤が使われます。そのため、KRAS遺伝子検査は、どんな抗がん剤を使った化学療法を行うかの判断が行われる前に実施されます。通常、内視鏡や手術で採取した組織を使った検査が、保険診療として行われます。
変異(異常) | 抗EGFR抗体薬の効果 | |
---|---|---|
KRAS遺伝子 | ×(なし) | 期待できる |
〇(あり) | 期待できない |
BRAF遺伝子検査
BRAF遺伝子検査は、KRAS遺伝子検査と同じく、最適な化学療法を選択するために行われます。BRAF遺伝子検査も保険診療として行われます。BRAF遺伝子に変異がある大腸がんでは、FOLFOXIRI(5-FU/ロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチン)に抗 VEGF 抗体薬(ベバシズマブ)を併用する治療法が有効であるという研究報告があります。また、BRAF遺伝子に変異がある切除不能な大腸がんに対しては、エンコラフェニブ+セツキシマブ併用療法またはエンコラフェニブ+ビニメチニブ+セツキシマブ併用療法が推奨されています。
遺伝性大腸がん検査
現在、遺伝性大腸がんは、遺伝性大腸がんリンチ症候群と家族性大腸腺腫症(FAP)の2つがわかっています。このうち、遺伝性大腸がんリンチ症候群のスクリーニング検査として、マイクロサテライト不安定性(MSI)※1検査があり、保険診療で受けられます。
MSI検査は、マイクロサテライトと呼ばれるDNAの反復回数を調べることで、DNAの修復機能が働いているかを予測する検査です。
- 50歳未満の大腸がん患者さん
- 同時期に大腸に複数のがんがある患者さん
- リンチ症候群関連がん※2がある患者さん
- 60歳以前に特有の組織所見※3を示す大腸がんと診断された患者さん
- 50歳未満でリンチ症候群関連がんになった親、兄弟(姉妹)がいる大腸がん患者さん
- リンチ症候群関連がんの親、兄弟(姉妹)、祖父母、おじ、おば、おい、めいが2人以上いる大腸がん患者さん
遺伝性大腸がんリンチ症候群が疑われる条件は
- 家系内に3人以上のリンチ症候群に関連したがんが認められる
- そのうち1人は、親、子、兄弟(姉妹)
- 少なくとも2世代で発症
- 少なくとも1人は50歳未満で診断
上記条件に合致していても、あくまでも「疑われる条件」のため、必ずリンチ症候群であるとは言い切れません。また、条件に合致していなくてもリンチ症候群の場合もあります。
また、MSI検査は、免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子としても注目されており、リンチ症候群に対する検査のほか、局所進行もしくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形がん、手術後の大腸がんの抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的とする場合でも、保険診療として受けられます。
※1:細胞が分裂するときDNAも複製されますが、複製ミスが発生することがあり、通常は修復機構が働くことで複製ミスを修復しています。この修復機構の機能が低下すると複製ミスが繰り返され、さまざまな遺伝子異常が重なり、細胞ががん化することがあります。DNAの文字列(塩基配列)中には、同じ文字列が繰り返し並んでいる部分があります。この部分をマイクロサテライトといい、繰り返す回数が多いほど間違いが起きやすくなっています。がん化した細胞と正常な細胞では、繰り返しの回数に違いがあるといわれ、これをマイクロサテライト不安定性(MSI)といいます。
※2:大腸、子宮体部、胃、卵巣、すい臓、尿管、腎盂、脳、小腸などのがん
※3:腫瘍に浸潤したリンパ球の存在、クローン様リンパ球の反応、粘液性/印環がん分化髄様増殖像などの所見
大腸がんの診断
大腸がんは、がんの深達度、リンパ節転移、遠隔臓器への転移などを総合的に判断したステージ分類(病期)に基づき治療方針が決定されます。
大腸がんのステージ(病期)を決める1つの要素が、がんの深達度です。
大腸は、内側から
- 粘膜
- 粘膜下層
- 固有筋層
- 漿膜下層
- 漿膜
の5つの層からできています。
大腸がんは、一番内側の粘膜から発生し、進行するほど外側の層へ浸潤していきます。この5つの層のどこまでがんが広がっているかを示すのが深達度(T分類)です。
大腸がんの壁深達度(T)
TX | 深達度の評価ができない |
T0 | がんを認めない |
Tis | がんが粘膜内にとどまり、粘膜下層に及んでいない |
T1a | がんが粘膜下層までにとどまり、浸潤距離が1000μm未満である |
T1b | がんが粘膜下層までにとどまり、浸潤距離が1000μm以上である |
T2 | がんが固有筋層まで浸潤し、これを越えていない |
T3 | がんが固有筋層を越えて浸潤している |
T4a | がんが漿膜表面に露出している |
T4b | がんが直接他臓器に浸潤している |
リンパ節転移
がんのステージ(病期)を決める2つ目の要素が、リンパ節への転移です。大腸の近くにあるリンパ節を大腸に関連した所属リンパ節といい、この所属リンパ節への転移の度合いをN分類といいます。
大腸がんのリンパ節転移(N)
N0 | リンパ節転移を認めない |
N1a | 転移個数が1個 |
N1b | 転移個数2~3個 |
N2a | 転移個数が4~6個 |
N2b | 転移個数が7個以上 |
N3 | 主リンパ節に転移を認める 下部直腸がんでは主リンパ節および側方リンパ節に転移を認める |
遠隔転移
がんのステージ(病期)を決める3つ目の要素が、遠隔転移です。遠隔転移は「ある」「ない」の2つに分けられます。転移がない状態はM0、転移がある状態はM1で、M1はさらに転移の数や転移した部位をabcで表します。
大腸がんの遠隔転移(M)
M0 | 遠隔転移を認めない |
M1a | 1臓器に遠隔転移を認める(腹膜転移除く) |
M1b | 2臓器以上に遠隔転移を認める(腹膜転移除く) |
M1c1 | 腹膜転移のみを認める |
M1c2 | 腹膜転移およびその他の遠隔転移を認める |
大腸がんのステージ分類
大腸がんのステージ分類は、壁深達度、リンパ節への転移の程度、遠隔転移の程度の3つの要素で決められます。
大腸がんの進行度分類
遠隔転移 | M0 | M1 | ||||||
リンパ節転移 | N0 | N1(N1a/N1b) | N2a | N2b/N3 | M1a | M1b | M1c | |
壁深達度 | Tis | 0 | – | – | – | Nに関係なく | ||
T1a・T1b | 1 | 3A | 3A | 3B | 4A | 4B | 4C | |
T2 | 3A | 3B | 3B | |||||
T3 | 2A | 3B | 3B | 3C | ||||
T4a | 2B | 3B | 3C | 3C | ||||
T4b | 2C | 3C | 3C | 3C |
参考文献:大腸癌研究会. ”大腸癌治療ガイドライン 医師用 2022年版”.金原出版,2022.
大腸癌研究会. ”大腸癌取扱い規約(第9版) ”.金原出版,2019.