乳がんの「乳房再建(人工乳房)」治療の進め方は?治療後の経過は?

監修者岩平佳子(いわひら・よしこ)先生
ブレストサージャリークリニック院長
1959年横浜市生まれ。1984年東邦大学医学部卒。ハワイ大研修で形成外科に魅了され、東邦大学医学部形成外科立ち上げ時入局。ベルギー大レジュール教授のもと、乳房再建を学ぶ。マイアミ大学形成外科、エモリ―大学形成外科留学。96年東邦大助教授を経て、2003年より現職。著書に「ブラックジャックになりたくて」日本放送出版協会、「乳房再建ここまでできる」講談社がある。

本記事は、株式会社法研が2011年11月25日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 乳がん」より許諾を得て転載しています。
乳がんの治療に関する最新情報は、「乳がんを知る」をご参照ください。

人工物によるインプラント再建術

 乳がんの治療後、失われた乳房に代わって新たな乳房を作ることができます。人工物(インプラント)を使った再建法を「人工乳房」、または「ティッシュエキスパンダー法」といいます。

乳房を切除して乳房を作り直す

乳房の形は千差万別

 乳がんと診断され、治療を始めるにあたってもっとも患者さんを悩ませるのは、乳房を残すか、取ってしまうかといった選択かもしれません。根治性を高めつつ、できるだけ乳房の大きさや形を保つ整容性をめざした乳房部分切除術の技術も進んできていますが、乳腺(にゅうせん)を切除する以上、手術前とまったく同じ乳房の大きさ、形というわけにはいかないのが現実です。
 そのため、手術後の患者さんのなかには乳房の変形が想像以上だったことにショックを受け、悩む方がいます。患者さんによっては大きく落ち込み、外出やおしゃれへの意欲が薄れ、引きこもりがちの生活になるなど、生活の質を低下させるほどの大きな喪失感を抱えてしまうこともあります。
 そこで注目され始めているのが、乳房再建術です。何が何でも乳房を残す方向で手術を考えるのではなく、局所再発のリスクが少ない乳房切除術(全摘)をしたうえで、新たに乳房を作り、その後の人生も自分らしく生きるという選択肢に多くの乳がん患者さんが関心を示しています。

人工乳房(インプラント)のメリット・デメリット

再建時期別の治療数

 乳房再建には再建に用いる素材によって、人工乳房と自家組織の二つの方法があります。人工乳房(シリコン・インプラント 以下、インプラント)を大胸筋の下に埋め込む「人工乳房による再建」と、患者さん自身の脂肪や筋肉といった組織を乳房に移植する「自家組織による再建」です。場合によっては、両方を併用することもあります。
 また、再建を行う時期によって、一期再建と二期再建とがあります。どちらの方法で、いつ再建を行うかは、乳がんの種類、受ける(すでに受けた)乳がん手術の術式、手術後にどれだけ皮膚や皮下組織が残っているか、放射線を照射するかしないか、反対側の乳房の大きさや形などさまざまな要素を考慮して決められます。もちろん、体型や職業、趣味やライフスタイルも手法を決める重要な要素になります。
 インプラントによる再建は、早期乳がんで乳房切除術後の場合に適応となります。乳房温存療法で乳房の変形が大きい場合にも、行われることがあります。インプラントを覆うだけの大胸筋(だいきょうきん)が残っていなければできない方法ですが、いまはほとんど大胸筋を残す手術が行われています。実際に再建を検討する際には、その点を担当医に確認したほうがよいでしょう。
 インプラントのメリットとしては、体のほかの部分に新たに傷を作らなくてすむ、外来で行え、患者さんの体への負担が少ないといった点が挙げられます。
 デメリットとしては、挿入する人工物は保険適用がない、人工物が内部で動いて形が損なわれたり、露出したりすることがある、炎症など合併症をおこすことがある、などがあります。

●人工乳房の適応
●進行乳がんではない
●乳房切除術を行っている
●手術後に大胸筋が残っている
●乳房に皮下脂肪がある程度残っている
このほか、全身状態なども考慮される。大胸筋をごっそり切除するような手術はほとんど行われていないが、残存する大胸筋や皮下の脂肪組織が少なすぎるとインプラントが挿入しにくい。

再建するタイミングは一期再建と二期再建

 再建には乳房切除術と一緒に行う一期再建と手術後しばらくたってから行う二期再建があります。
 一期再建では、乳房の切除後そのまま再建術に移るので、麻酔から目覚めたときに乳房のふくらみがないという経験をせずにすみます。ただし、患者さんはよく検討する時間をもたないまま再建することで、選択した手技に伴うリスクを理解していないことがあります。また、まれな例ですが、局所再発したときは再建した乳房を切除したり放射線をかけたりしなければならないこともあります。
 二期再建では、時間をかけて再建法を検討したり、再建するか・しないかを決めたりすることが可能で、希望すればいつでも行うことができます。ただし、早ければ早いほど痛みは少なくなります。
 なぜなら、手術後の時間がたてばたつほど、皮膚は縮んでいくからです。ちょうど妊婦さんのふくらんだおなかが、出産後にはもとに戻るように、皮膚は支えがなくなると、その瞬間から縮もうとする性質をもっているのです。
 インプラントを挿入するには、胸の皮膚や筋肉を、乳房のふくらみをもたせられるだけエキスパンダー(組織拡張器)で伸ばさなければならず、痛みが伴います。
 また、多くの場合薬物療法を続けながら再建術を行うことになるので、経済的にも、肉体的にも負担が大きいといえます。とくにホルモン療法を行う場合、ホルモン療法薬の影響で残った健常なほうの乳房が萎縮(いしゅく)する場合もあるので、インプラント選択の際には留意しています。
 いずれにしても一長一短があるので、主治医や再建を担当する医師とよく相談することが大切です。
 当クリニックの患者さんの推移をみると、以前は二期再建が多かったのですが、2008年を境に逆転し、一期再建が増えてきています。これは、乳房再建への理解が深まり、一期再建に前向きな乳腺外科医が増えてきているからではないかと考えています。

一期再建と二期再建のプログラム

放射線療法中の患者さんは皮膚の状態が悪くなる

 手術後の治療で放射線照射を受けている患者さんから、再建の相談を受けることもあります。不可能ではありませんが、施術の難易度は高まります。
 放射線照射後の皮膚から作る乳房の状態について、通常のケースよりも念入りに説明しますが、放射線を照射していない患者さんと比較すると、再建には時間がかかり、結果も劣ってしまうことは否定できません。
 再建した乳房がより自然であると感じるには、大きさや形とともに、やわらかさという点も非常に重要です。放射線照射をした皮膚組織は、軽いやけどを負ってダメージを受けた状態と同じです。火災後の焦土のようなもので、通常の皮膚よりもやや硬(かた)くなっています。なかに入れる人工物がどんなにやわらかくても、それを包み込む皮膚が硬ければ、やはり硬い乳房になってしまいます。また皮膚自体が伸びにくく、乾燥しやすくなっていますし、血行も悪くなっています。再建を難しくする条件が重なることになります。
 また、のちに述べる感染症や被膜(ひまく)拘縮などの合併症などをおこしやすく、再建の途中で皮膚が破れてしまうことが一定の割合でおこることも知られています。そうした結果が予想される場合には、自家組織の再建法である広背筋皮弁法を併用することもあります。

●放射線照射による皮膚のダメージ
●皮膚が硬くなる
●皮膚が伸びにくくなる
●色素沈着がある
●乾燥しやすくなる
●血行が悪くなる

治療の進め方は?

 ティッシュエキスパンダーを大胸筋下に埋め込み、生理食塩水を注入しながら、少しずつ皮膚を伸ばしていきます。皮膚が十分に伸びたら、エキスパンダーを人工乳房(インプラント)に入れ換えます。

乳がんの「乳房再建(人工乳房)」治療の進め方とは
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