大腸がんの「骨盤内臓全摘術」治療の進め方は?治療後の経過は?

監修者絹笠祐介(きぬがさ・ゆうすけ)先生
静岡県立静岡がんセンター 大腸外科部長
1973年東京生まれ。98年、東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学腫瘍外科教室に入局。2001年より国立がんセンター中央病院下部消化管外科勤務、05年、札幌医科大学にて骨盤解剖学の研究に従事。06年より静岡県立静岡がんセンター勤務、07年東京医科歯科大学・大学院腫瘍外科学分野修了。10年より現職。日本外科学会専門医。日本消化器外科学会専門医。日本大腸肛門病指導医。日本内視鏡外科学会技術認定医ほか。

本記事は、株式会社法研が2012年6月26日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 大腸がん」より許諾を得て転載しています。
大腸がんの治療に関する最新情報は、「大腸がんを知る」をご参照ください。

骨盤内まで広がったがんを周囲の臓器ごと切除する

 がんが大腸を突き破って広がったときに行われる手術です。浸潤(しんじゅん)した可能性のある臓器をすべて切除することで、再発がんや他臓器浸潤がんでも根治が期待できます。

がんが広がっていても取りきれるなら手術をする

骨盤内臓全摘術の特徴

 当施設は、がん専門病院という特性からか、がんがかなり進行してから受診する患者さんが多い傾向にあります。そのなかには、ほかの病院ですでに「手術は不可能」といわれた患者さんも含まれています。
 がんが他臓器に浸潤しているような進行がんの患者さんに対しては、大腸を腸間膜ごとリンパ節切除する通常の手術(TME)ではもう意味がなく、がんが広がってしまっている周辺の臓器を丸ごと摘出する拡大手術が必要となります。これを「骨盤内臓全摘術」といい、この手術によって、かなり進行したがんであっても根治を望むことができます。
 大腸がんの治療法には、抗がん薬による化学療法や放射線療法などもありますが、手術以外の治療では延命は望めても根治は期待できません。そこで、大腸がんに対しては、私たちはできるだけ「限界をつくらずに手術を行う」と考えて治療にあたっています。それが専門病院としての役割であるとも考えています。
 骨盤内の臓器を根こそぎ取ってしまう骨盤内臓全摘術は、長時間にわたる大手術で、患者さんの体力や全身状態がよくなければできず、また手術の難易度が非常に高く、合併症に対応する知識や経験も必要なため、高度な技術をもつ治療チームの存在が必要です。そのため一般の医療機関ではあまり積極的には行われていません。そこで、手術はできないとあきらめてしまう患者さんも少なくないと思います。
 しかし、それでもあきらめずに当施設を受診する患者さんに対しては、十分な検査を行い、骨盤内臓全摘術による治療が可能である、または排尿・排便機能を温存して骨盤内臓器の摘出を行えると判断した場合に、この手術を提案し、積極的に根治を目指します。

骨盤内の臓器に浸潤しているMRI画像

大きな手術が「できる・できない」の基準とは?

 直腸がんに対する骨盤内臓全摘術には、大きく分けて「骨盤内臓全摘術」と「仙骨合併骨盤内臓全摘術」の2種類があります。
 前者は骨盤内にある臓器、直腸と膀胱、尿道、男性なら前立腺、精のう、女性なら子宮と膣(ちつ)をすべて摘出する手術です。それに加えて仙骨を一部削るのが後者で、直腸の裏側(仙骨周辺)にがんが広がっているときなどに行われます。
 骨盤内にある臓器や組織の一部を残す場合は、骨盤内臓全摘術といわず、他臓器合併切除(直腸切除+子宮全摘、あるいは膀胱部分切除など)と呼んでいます。肛門(こうもん)は括約筋(かつやくきん)などの機能を一部残せる場合(ISR)と、まったく残せない場合とがあります。
 この骨盤内臓全摘術を行えるかどうかには、患者さんの体力などいくつかの条件があります。
 この手術は、根治が期待できる反面、切除する範囲が大きく、排便、排尿、生殖にかかわる機能など失うものも少なくありません。したがって、手術にあたっては、患者さんや家族の方に納得して同意してもらうことが不可欠です。
 臓器を切除した場合、どれだけ日常生活にかかわる機能が損なわれるのかを検討し、術後の日常生活にきたす支障の程度や、機能が失われる場合の対処法などをしっかり話し合ったうえで、選択してもらうことになります。

●手術の適応

・大手術(全身麻酔)に耐える体力があり、基礎疾患がない
・がんが第2仙骨より下にある
・骨盤側壁にがんが広がっていない
・肝臓、肺に転移がないか、あっても切除可能な場合

摘出する範囲

治療の進め方は?

 おなかを切開したあと、直腸の上、背中側、おなか側、下の4方向から少しずつ骨盤内の臓器を剥(は)がしていきます。大変難易度が高い手術で、10時間以上かかることもあります。

大腸がんの「骨盤内臓全摘術」治療の進め方とは
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