肺がん手術を予定している患者さんへ なぜ手術が必要なのか? なぜ薬物療法が必要なのか?  手術前に基本的なことを理解しておきましょう

後藤 悌 先生
解説:国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科 外来医長 後藤 悌 先生

そもそも、肺がんの手術はなぜ行う?

手術は、肺がん治療の中で最も優先度が高い治療法で、その目的は、「肺にできたがん細胞を手術で取り除き、がん細胞がない状態にすること」 です。肺にがんがなくなれば、あなたの肺がんは完治したといってよいでしょう。

ただし、すべての肺がんに手術が行われるわけではありません。手術を行うかどうかは、肺がんの病期(ステージ)などをもとに判断されます。

肺がんの病期は、がんの種類、がんができた場所や広がりの組み合わせによって、Ⅰ期からⅣ期に分類されています。このうち、手術の対象となるのは、Ⅰ期からⅢ期の一部(ⅢA期)であることが一般的です(図1)。Ⅰ期とⅡ期は比較的早期のがんで、“転移はなさそう” と診断された状態です。がん細胞が発生した部位にとどまっていることが多いので、その部分を取り除くことによって、完治する可能性が高い肺がんといえます。  

※病期以外に、患者さんの希望、患者さんの体力なども手術を行うかどうかの判断基準になります。

図1 がんの病期と治療の目安(Ⅰ期からⅢ期の一部)

図1 がんの病期と治療の目安(Ⅰ期からⅢ期の一部)
 

病期により異なる薬物療法の役割 ~目に見えないがんを退治する薬物療法と、目に見えるがんを退治する薬物療法~

しかし、“転移はなさそう” と診断されても、血液やリンパ液などの中にまでがん細胞が広がっているかどうかを、検査で調べることはできません。肺がんの手術を行っても再発や転移が起こるケースがあることから、たとえⅠ期やⅡ期のような早期の肺がんであっても、血液やリンパ液などにがん細胞が隠れている可能性を考慮する必要があるのです。そうした目には見えないがん細胞を退治するために、多くの場合、手術の前後に補助的な薬物療法が行われます。

一方、Ⅲ期(ⅢB/ⅢC期)、Ⅳ期といったもっと進行した病期の場合は、肺以外にがんが広がっていることがわかっているので、がんを手術で肺から取り除くだけでは治療効果が不十分だと判断できます。そのようながんに対しては、すでに広がったがんを退治するための薬物療法が手術よりも優先されます(図2)。Ⅳ期に比べてまだ広がりが小さいⅢ期の場合は、薬物療法に加えて放射線療法が併用されることもあります。

図2 がんの病期と治療の目安(Ⅰ期からⅣ期)

図2 がんの病期と治療の目安(Ⅰ期からⅣ期)
 

手術と合わせて行われる薬物療法(周術期治療) ~手術前に行う薬物療法と、手術後に行う薬物療法~

手術をすることが決まってから入院、手術、退院を経て、社会復帰するまでの期間を「周術期」と呼んでいます。この周術期の中で行われる薬物療法としては、「手術前に行う薬物療法」と、「手術後に行う薬物療法」の2つがあります(図3)。どちらも、手術で取り除くがんとは別の場所に残っているかもしれないがん細胞を退治するために行う治療で、これを行うことによって再発や転移の抑制が期待できます。また、手術前に行う薬物療法については、現在あるがん細胞を小さくして、手術を行いやすくすることも目的の1つとなります。

肺がん治療に用いられているお薬としては、さまざまな種類のものが開発されています。かつては、いわゆる抗がん剤治療(化学療法)が主流でしたが、最近は「分子標的薬」や、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる新しいタイプのお薬も使われるようになりました。選択肢が増えていることは患者さんにとって恩恵といえるでしょう。どのお薬が適しているかは患者さんの肺がんのタイプによって異なりますから、どのお薬を用いて治療を行うかは、主治医の先生とよく話し合って決めるとよいと思います。

図3 手術を受ける患者さんに行われる薬物療法

図3 手術を受ける患者さんに行われる薬物療法
 

手術の前後に薬物療法を行うことによって、生存率が高まる可能性がある

肺がん治療として手術を選択する場合は、基本的にがん細胞をすべて取り除くことを前提としています。したがって理論上は、手術後の肺にがんはないことになります。肺にがんがなければ、本来は薬物療法を行う必要はありません。しかし先述のとおり、早期の肺がんであっても目に見えないがん細胞が残っている可能性があるため、再発や転移が起こる確率を低くするために、手術だけでなく薬物療法も薦められることがあるのです。がんのタイプや、病期によってその効果は違いますが、一般的には、手術後の薬物療法を行うことによって、生存率が5~10%高くなるといわれています1~3)

一方で、薬物療法を行えば副作用が起こる可能性があります。また、治療を受けるために通院に時間を割かないといけないこともあるでしょう。薬物療法を受ける上ではそうしたデメリットもありますが、メリットが小さくないことも理解した上で、どのような治療を受けるかを決めていただければと思います。

 

主治医の先生とよく相談し、納得した上で治療を決める

肺がんは、患者さんごとに特徴が異なるため、一人一人に適した治療法もさまざまです。主治医の先生は、がんの状態や患者さんの生活背景などを考慮した上で、最適な治療法を提案されるでしょう。しかし、肺がんになったことが心理的なストレスになっていたり、治療や生活のことなど、考えることがたくさんあったりして、先生の説明がなかなか頭に入って来ないこともあると思います。

もし、ご自身の理解が及ばない場合は、ご家族などにも診察に同行してもらうことをお薦めします。また、肺がん手術の前や後に行う薬物療法については、以下の動画でもわかりやすく説明していますので、ぜひ参考になさってください。わからないことがご自身の不安を大きくしてしまうことがないよう、一人で抱え込まず、周囲のサポートを得ながら、納得できる治療が選択できることを願っています。

  • 1) Hamada C, et al. J Clin Oncol. 2005; 23(22): 4999-5006.
  • 2) Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Group. BMJ. 1995; 311(7010): 899-909.
  • 3) Pignon JP, et al. J Clin Oncol. 2008; 26(21): 3552-9.
 

最新のがん医療情報をお届けします。

無料で 会員登録
会員の方はこちら ログイン