胃がん治療ガイドラインで推奨された治療法とその根拠

島田英昭先生
監修:東邦大学大学院消化器外科学講座教授 島田英昭先生

2018.2 取材・文 柄川明彦

 胃がんの治療ガイドラインが改訂され、第5版が刊行されました。このガイドラインでは、専門家たちの間で議論がある治療について、クリニカル・クエスチョン(CQ)とそれに対する回答という形で、「行うことを推奨する」「行わないことを推奨する」といった結論を出しています。それらの中から、患者さんが知っておいたほうがよいポイントを選びだし、どのように理解したらよいかを解説していきます。

胃癌治療ガイドラインの第5版では、外科的手術、内視鏡的切除、化学療法の各分野で大きな改訂が

 「胃癌治療ガイドライン」が改訂され、第5版が2018年1月に刊行されました。ガイドラインの改訂が必要になるのは、新たな治療法の有用性や安全性が証明されたり、これまで標準治療とされていた治療の有用性や安全性が否定されたりするためです。新たに有用で安全な治療法が登場すれば、それを行うことを推奨する必要がありますし、従来の治療法の有用性や安全性が否定されれば、行わないことを推奨する必要があります。第5版には、2017年3月までに発表された多くの臨床試験の結果が反映されています。外科手術で重要なランダム化比較試験や内視鏡的切除の前向き検証試験の結果が明らかとなり、さらに化学療法では多くの新しい薬が登場したことでレジメンの変更がありました。近年は、胃がんを対象とした化学療法の臨床試験が盛んに行われるようになり、化学療法分野が急速に進歩し始めています。

標準治療の対象とならない患者さんのために必要なCQ

 ガイドラインで推奨されている治療は、すべての患者さんに推奨される、と考えられている人が多いかもしれません。しかし、実はそうではありません。ガイドラインの内容は、実際には半数程度の患者さんにしか当てはまりません。

 ガイドラインでは、臨床試験の結果に基づいて有用性と安全性が認められた治療法を推奨しますが、臨床試験の対象となるのは、一定の条件を満たした患者さんです。たとえば、年齢に関しては、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の臨床試験の多くが75歳未満の患者さんを対象としています。したがって、年齢だけで考えても、75歳以上の人にとっては、直接的なエビデンスは明らかではないということになります。

 胃がんの罹患者数は約14万5000人ですが、70歳以上の人が8万2000人(2013年)で、現在はさらに増えていると考えられます。これから何年か経過すると、75歳以上の患者さんが半分程度を占めるようになると考えられます。つまり、年齢的に直接的エビデンスが明らかではない人が、半数程度を占めるようになるのです。

 さらに、臨床試験の対象となるためには、年齢以外にも、PS(全身の身体状態)が0か1の患者さん、腎機能障害や肝機能障害がないなどの条件に適した患者さんです。したがって、PSが2以上の人や、腎障害や肝障害がある人も、直接的エビデンスが明らかではない人たちです。

 このように考えてくると、ガイドラインで推奨されている治療法は、誰にでも推奨されるわけではないことがわかります。そういう患者さんにも対応するため、現在わかっている範囲で、まとめられたのがCQです。

 もちろん、全身状態や腎臓・肝臓機能などの観点からガイドラインで推奨されている治療を受けられる条件を満たしている患者さんに、あえてエビデンスのはっきりとしていない治療を推奨するべきではありません。

胃癌治療ガイドラインで新しく追加されたCQのポイントとは

 新しい治療法が登場し、議論のある部分に関しては、CQと「推奨文」という形でまとめられています。第5版の注目ポイントについて解説していきましょう。

胃癌治療ガイドラインで新しく追加されたCQのポイントとは
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プロフィール
島田英昭(しまだひであき)

1984年 千葉大学医学部卒業
1984年 千葉大学医学部附属病院第二外科入局
1991年 マサチューセッツ総合病院・ハーバード大学外科研究員
2002年 千葉大学講師大学院医学研究院(先端応用外科学)
2008年 千葉県がんセンター主任医長(消化器外科)
2009年 東邦大学外科学講座 一般・消化器外科教授
2009年 東邦大学大学院消化器外科学講座教授(併任)
2017年 東邦大学医療センター大森病院がんセンター長(併任)

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