大腸がんの遠隔転移 肝臓、肺、脳の転移巣に対する第一選択は手術、局所療法を検討

杉原健一先生
監修:東京医科歯科大学名誉教授・特任教授 光仁会第一病院院長 杉原健一先生

2017.11 取材・文:柄川昭彦

 大腸がんでは、がん細胞が血液に乗って流れていき、肝臓、肺、脳などに転移を起こすことがあります。大腸がん以外のがんでは、このような遠隔臓器に転移が起きると、完治は困難となりますが、大腸がんの肝転移、肺転移では、適切な治療を受けることにより、完治を目指せる場合があります。治療の基本は、手術で切除できる転移巣は切除することです。手術ができない場合や、手術しても治りきらなかった場合は、全身化学療法の対象となります。その場合でも、薬物治療が進歩したことにより、長い期間元気に生活できるようになってきています。

大腸がんは肝臓や肺に転移しやすい

 大腸がんは、肝臓や肺に転移しやすいことが知られています。報告によれば、大腸がんが発見された時点ですでに、肝臓には10.9%、肺には2.4%の割合で転移が起きているといいます。また、手術後の再発として転移が見つかることもあります。この場合、最も多いのが肝臓への転移で7.1%、次は肺への転移で4.8%です。

 肝臓や肺への転移は、がん細胞が血液に乗って流れていくことで起こります。このような転移を血行性転移といいます。大腸がんの遠隔転移では、血行性転移のほかに、腹膜にがんが散らばるように転移する腹膜播種があります。腹膜播種は、がんが大腸壁の外側に出てきた場合に、そこからがん細胞が腹腔内に散らばって、腹膜などに生じる転移です。ここでは、血行性転移の治療を中心に解説していきます。

 大腸がんが肝臓や肺に転移しやすいのは、大腸で吸収された栄養が、血液によって肝臓に運ばれるため、がん細胞も肝臓に運ばれやすいためです。大腸からの血液が集まって肝臓へと注ぎ込む血管を門脈といい、大腸のがん細胞もこの門脈によってまず肝臓へと運ばれます。

 肝臓に流れた血液は、そのすべてが肺に運ばれて、二酸化炭素と酸素のガス交換を行います。そのため、肺への転移も起きやすくなります。

 血行性転移として、脳に転移が起きることもあります。肝転移や肺転移に比べると頻度は低いのですが、血流に乗ってがん細胞が脳に運ばれていくことで起こります。ただし、脳に最初の遠隔転移が生じることはなく、肝転移や肺転移が起きた後に起こります。

肝転移は肝臓を最低30%以上残せれば切除を検討、残せなければ全身化学療法

 肝転移でも肺転移でも、血行性転移に対する治療は、手術で切除できるのであれば、手術を行うのが基本です(表)。手術によって、見つかっているがんをすべて取り切ることができれば、完治も期待できます。

 ただし、肝転移の場合、どうような転移なら手術が可能なのか、一律の基準はありません。手術に耐えられる体力があり、技術的にがんを取り切ることができ、必要な肝臓の機能を残せる場合に手術が推奨されています。肝臓の機能として正常な肝臓を最低でも30%残すことが必要です。肝臓の容積がそれ以下になると、がんは取り切れても、生命を維持するのが難しくなってしまうからです。

 肝転移の切除手術を行った場合の5年生存率は、35~58%とされています。日本のデータでは、3年生存率が54.4%、5年生存率が42.1%となっています。

 肝臓の切除手術を行っても、約半数のケースで残った肝臓に再発が起こります。その場合でも、切除が可能であれば手術を行います。肝臓の再切除手術を行った場合の5年生存率は、21~48%と報告されています。2回、3回と手術をして治るケースもあります。

 がんが大きい、数が多い、重要な血管に接しているなどの理由で、正常な肝臓を30%以上残せない場合には、手術は行わず、全身化学療法による治療をします。

 その場合でも、全身化学療法が非常によく効いて、がんが小さくなったり、数が減ったりして、手術が可能になることがあります。ただし、全身化学療法を行うと肝臓の機能が低下することがあるため、肝臓を40%以上残せることが条件となります。手術前に化学療法を行うと、がんが小さくなったり、数が減ったりするのに加え、目に見えない微小ながんをたたいておくという効果も期待できます。

表:大腸がん転移の治療選択
表:大腸がん転移の治療選択

熱凝固療法や肝動注療法という局所療法を選択する場合とは
図1:肝動注化学療法のしくみ
図1 肝動注化学療法のしくみ

 大腸がんの肝転移に対しては、熱凝固療法や肝動注療法といった治療が行われることがあります。

 熱凝固療法としてよく行われているのは、ラジオ波焼灼療法です。体の外から肝臓の転移巣に針を刺し、針先端の電極から発信するラジオ波で周囲を高温にし、がんを死滅させる治療です。治療できる大きさに限度があり、適しているのはがんが3cm以下の場合です。

 熱凝固療法を選択するのは、手術が適さなかったケースです。例えば、がんが小さいにもかかわらず、肝門部にできていたり、胆管に入り込んでいたりして、手術では切除範囲が大きくなってしまう場合です。手術と熱凝固療法を組み合わせた治療を行うこともあります。また、患者さんの全身状態がよくないために手術に耐えられない場合でも、熱凝固療法ならば行えることがあります。

 肝動注化学療法は、肝動脈までカテーテルを送り込み、そこから抗がん剤を注入する方法です(図1)。フルオロウラシル(製品名:5-FU)という抗がん剤が使われます。肝転移治療のために抗がん剤を全身投与する場合よりも、はるかに高濃度の抗がん剤を送り込むことができます。また、フルオロウラシルは肝臓で代謝されるため、肝臓から出ていくときには分解されているので、全身的な副作用はほとんど出ません。これも肝動注化学療法のメリットです。

 全身化学療法とは異なるため、肺に微小な転移巣があったとしても、肺の転移巣にはまったく効果がありません。そのため、肝転移への効果が認められていても、臨床試験では生存率などの改善にはあまり影響しないため、最近はあまり行われなくなっています。肝臓機能がよくないために全身化学療法が行えないようなケースでは、肝動注化学療法を行い、肝臓の状態の改善を目指すことがあります。

 熱凝固療法も肝動注化学療法も、大腸がんの肝転移に対するメインの治療法ではありません。手術が適さない場合に選択する治療法という位置づけです。

大腸がんの肺転移に対しても切除が可能ならば手術

 肺転移に対する治療選択の考え方も、基本的には肝転移と同じです。切除手術ができるのであれば、手術を選択しますが、手術できるケースは、肝転移の場合ほど多くありません。手術後に起きた肝転移の場合は、約半数で手術が可能ですが、それに対し、手術後に生じた肺転移では、手術できるのは3~4割程度です。

大腸がんの肺転移や脳転移に対する治療とは?
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プロフィール
杉原健一(すぎはらけんいち)

1974年 東京大学医学部卒業、東京大学医学部第一外科
1975年 東京厚生年金病院外科
1979年 東京大学医学部第一外科
1985年 Imperial Cancer Research Found(英国)研究員
1989年 国立がん研究センター中央病院
1997年 東京医科歯科大学医学部外科学第二講座教授
2004年 東京医科歯科大学大学院腫瘍外科学分野教授
2014年 東京医科歯科大学名誉教授・特任教授。光仁会第一病院院長

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