局所再発した大腸がんの治療選択 手術ができる場合、できない場合の基準と考え方

高橋慶一先生
監修:都立駒込病院外科部長 高橋慶一先生

2017.11 取材・文:町口充

 大腸がんを手術で取り除いても、元もとがんがあった個所か、その近くで再びがんが発生することがあります。これを「局所再発」といいます。局所再発の治療は、手術で取り切れると判断されれば再び手術をして治癒をめざし、手術による切除が難しい場合は化学療法や放射線治療が行われます。局所再発で手術ができる場合と手術ができない場合の違いはどこにあるか、治療法はどのように選択されるのかに関して解説します。

結腸がんの局所再発は1%以下だが、直腸がんは約10%

 大腸がんは、発生した部位によって、直腸がんと結腸がんに分けられますが、手術で切除しても、結腸がんより直腸がんのほうが局所再発のリスクが高いことがわかっています。結腸がんの局所再発率は1%かそれ以下なのに対して、直腸がんでは約10%に局所再発が起こります。

 なぜ直腸がんのほうが局所再発のリスクが高いのでしょうか?

 たとえば、がんが大腸内の表面にある粘膜にとどまっている場合、手術で完全にがんを切除すれば、少なくともその部分や周辺、つまり局所での再発はないはずですが、決してゼロではありません。

 結腸は直腸の何倍もの長さがあり、また腸間膜に吊されて小腸を囲むように比較的広い空間に位置しているため、手術時の視野が広いという利点があります。このため、がん病巣だけでなく付属リンパ節も含めてかなり広めに切除することが可能であり、がんの取り残しが少なくなります。

 一方、直腸は骨盤という閉鎖された領域にあり、膀胱や前立腺、子宮や膣などの泌尿器、生殖器に囲まれています。さらに直腸と隣接して排尿や排便、性機能に深くかかわる自律神経や排便に重要な役目を果たす肛門括約筋などがあります。したがって直腸がんの手術は結腸がんのようにおなかの表面に近い場所の手術ではなく、骨盤という狭い空間の奥深く、たとえて言うと井戸の底にあるものを重要な臓器や神経、血管などをかいくぐって取り去るような手術になり、結腸がんに比べて難易度が高くなります。

 また、直腸は短いうえに肛門のすぐ上にあるので切除範囲も限定的にならざるを得ません。排便機能を維持するためには肛門の周囲をなるべく残す必要があり、現在では直腸がんの手術の80%以上が肛門機能温存手術になっています。この手術では肛門括約筋を残してがんを一定の範囲で切り取りながらリンパ節も一緒に取ります、しかし、肛門からがんの距離が3cm~4cmしかないという場合、ギリギリの距離で切り取ることになります。その結果、目に見えないがんの取り残しが生じ、それが再び腫瘍化して局所再発する可能性があります。このため、局所再発率は肛門に近い下部直腸(肛門からおよそ10cm以内)で高くなる傾向にあります。

下部直腸がんに多い骨盤側壁のリンパ節への転移

 直腸がんの場合、局所再発には2つのタイプがあるのも特徴です。1つは吻合部再発といい、これは最初の手術でがんのある腸管を取り除いて腸管と腸管をつないだところに、目に見えないがん細胞が残っていて再発するケースです。もう1つが骨盤内再発で、解剖学的な位置関係から直腸だけでなく骨盤内の膀胱や前立腺、子宮、膣、さらには仙骨や尾骨にまで浸潤・転移しているものも局所再発に含まれています。

 特に下部直腸のがんは、骨盤の側壁にあるリンパ節(側方リンパ節)に再発が起こりやすい特徴があります。具体的には、大腸の壁の中にがんがどの程度深く入り込んでいるかを示す深達度が、T3(大腸の壁の筋肉の外側まで出てきている)、T4(大腸の壁の外側の表面を破ったり周囲の臓器に食い込んだりしている)の下部直腸がんの場合、側方リンパ節への転移陽性率は20%程度といわれています。

 日本では局所再発を予防するため、直腸がんの手術では、がんの切除と同時に自律神経を損傷することなく側方のリンパ節を郭清(切除)する自律神経温存側方リンパ節郭清標準治療として行われています。

局所再発は術後1~1年半後に多い

 手術でがんが明らかに取りきれなかった場合は再発がすぐに起こりますが、肉眼では完全にがんが取り除けたと判断された場合、再発までの期間はおおよそ半年から3年ぐらいと幅があり、なかには数年たってから再発が見つかることもあります。平均すると1年~1年半ぐらいで再発することが多いようです。

 結腸がんを含めても、大腸がんの再発や転移は80%以上が手術してから3年以内に、また、約96.5%が5年以内に見つかっています。このため、ステージやがんができた部位によっても異なりますが、3か月~半年に1回の検査が重要になってきます。定期的な検査によって、再発しても早く発見できれば手術で取りきれる可能性が高まるとともに、手術で取りきれないと判断されても治療の選択肢は多くなります。

 局所再発の場合、自覚症状によって再発が見つかることもあります。直腸での再発が進行すると、血便や肛門周辺の痛みといった症状があらわれます。血便は、手術のときに腸と腸をつなぎ合わせた吻合部に再発したがんが出血することによって起こります。また、がん病巣が大きくなって坐骨神経を圧迫すると坐骨神経痛を生じ、お尻(臀部)や下肢に痛みを覚えるようになります。仙骨にがんが広がればお尻の痛みはさらに強くなります。

 がんは進行すると症状が現れるため、症状を自覚する前に再発を見つけることが大事であり、定期的な検査が欠かせません。

再発が仙骨にまで及ぶと手術不能の場合もある

 局所再発した場合、切除が可能であるなら外科手術を行います。再発したがんを完全に切除できれば、治癒の可能性が高くなりますが、手術で取りきれるかどうかの判断は再発した場所によって異なります。

手術ができる場合、できない場合の基準と考え方とは
この続きを読むには、新規会員登録(無料)またはログインが必要です。

新規会員登録(無料) ログイン

プロフィール
高橋慶一(たかはしけいいち)

1984年山形大学医学部卒業。
東京都立駒込病院外科(現がん・感染症センター都立駒込病院外科)入局
2007年より現職

最新のがん医療情報をお届けします。

無料で 会員登録
会員の方はこちら ログイン