大腸がんの「ポリペクトミー・EMR(内視鏡的粘膜切除術)」治療の進め方は?治療後の経過は?

監修者田中信治(たなか・しんじ)先生
広島大学病院 内視鏡診療科教授
1958年島根県生まれ。84年、広島大学医学部卒業後、同大医学部附属病院内科に研修医として入局。86年より北九州総合病院内科、広島赤十字・原爆病院内科、国立がんセンター病院(現・中央病院)内視鏡部研修医などを経て帰局。97年、ブラジル・リオグランデ州立大学消化器科客員教授。98年、広島大学医学部附属病院光学医療診療部助教授。2000年に同光学医療診療部部長、07年現職に至る。主な資格に、日本消化器内視鏡学会、日本消化器病学会、日本大腸肛門病学会、日本内科学会指導医、日本消化器がん検診学会認定医ほか。

本記事は、株式会社法研が2012年6月26日に発行した「名医が語る最新・最良の治療 大腸がん」より許諾を得て転載しています。
大腸がんの治療に関する最新情報は、「大腸がんを知る」をご参照ください。

内視鏡を使って手術せずにがんを切除

 内視鏡を肛門から挿入し、腸内から病変を切除する治療です。粘膜内がんと一部の粘膜下層がんの患者さんが対象となります。

おなかを切ることなくがんが「根治」できる

直腸鏡は直腸がんの検査に用いられる・病変の形と大きさで方法を選択する

 内視鏡検査で用いられる大腸内視鏡を肛門(こうもん)から挿入して、大腸の内側からがんを切除する方法を、「内視鏡治療」といいます。
 現在、わが国では「ポリペクトミー(スネアポリペクトミー)」、「EMR(内視鏡的粘膜切除術)」、「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術)」という三つの方法が行われています。当施設では正確な診断と慎重な検討のうえ、これら三つを適宜選択していますが、ここでは、主にポリペクトミー、EMRについて解説します。
 消化器のがんに対する内視鏡治療の歴史は意外に古く、1955年の直腸のポリープに試行した報告が最初のEMRとみられます。検査に用いる直腸鏡を用いた手技で、粘膜下層に液体を注入して切除したほうが安全に切除できるという内容でした。その後は、主に胃がんに対して試みられ、大腸がんでは、1970年代から検討が始まり、90年代から広く行われるようになっています。
 内視鏡治療の登場により、以前は手術が必要であった大腸がんが、早期であれば、おなかを切ることなく治すこと(根治)ができるようになりました。内視鏡による治療は手術に比べ、患者さんへの負担が少なく、治療後も痛みはなく、回復も早くなります。患者さんにとって、低侵襲(しんしゅう)治療、すなわち負担の小さい治療法が普及し、治療の選択肢が増えたことは、福音といえるでしょう。

病変に「茎やくびれ」があるかないかで治療の方法が異なる

 ポリペクトミーとEMRは、ともに内視鏡の先端に取りつけたスネアと呼ばれる金属製の輪を病変に引っかけて締めつけ、そこに高周波電流を流して切除する治療法です。
 ポリペクトミーは、きのこのように根元に茎やくびれのある病変に対し、茎やくびれの部分にスネアを引っかけて切除する方法です。  一方、EMRは、病変が平らな表面型などのがんや腺腫(せんしゅ)を切除するときに行われる方法です。病変直下の粘膜下層に生理食塩水などの液体を注入して、病変を浮かび上がらせてから、ポリペクトミーの要領でスネアを引っかけて絞り、高周波電流を流して病変を切除します。病変を浮き上がらせるので、ポリペクトミーでは治療ができないような平らな病変でも切除できます。

茎やくびれのあるポリープの切除に有効なポリペクトミー病変基部を盛り上げて切除するEMR

がん化する可能性のある腺腫や転移のない早期がんが対象

 私たちが内視鏡治療を選択するのは、それによって手術をせずに根治を期待することができる患者さんに対してです。そのなかには、今はがんではないものの、放置しておくことで、将来がんになるおそれが大きい腺腫も含まれます。
 現在、ポリペクトミーとEMRの対象となるのは、直径が5mm以上の腺腫と、リンパ節転移がないと考えられる2cm未満の早期がんです。腺腫については、一般に、5mm以下の小さな病変は良性の腺腫のままでいることが多いのでそのままにし、定期的に検査をして状態を観察する方法がとられます(患者さんの希望や医療機関によっては、内視鏡検査時に取ってしまうこともあります)。
 早期がんについては、内視鏡治療によって安全に一括で取りきれるかどうか、リンパ節に転移があるかないかが大切な目安となります。
 具体的には、粘膜内がん(Mがん)が最もよい対象です。大腸の表面にある粘膜は、そこだけにがんがとどまっていれば、リンパ節へ転移している危険性は、まず、ありません。

粘膜下層がんは浸潤度を見極めることが重要

 また、粘膜下層がん(SMがん)のうち、ごく程度が軽い、粘膜下層の浅い部分にとどまっていると推測できるがん(軽度浸潤(しんじゅん)がん)も、内視鏡治療の対象としています。
 粘膜下層には、微細な血管やリンパ管が存在しているので、わずかではありますが、リンパ節転移の危険性が出てきます。日本の大腸がん治療を牽引(けんいん)する専門家集団「大腸癌(がん)研究会」の調査では、一定の条件を満たせば、粘膜と粘膜下層の境界線から1mmより浅い部分にがんがとどまっている場合でのリンパ節転移率は0%でしたが、それより深くまで到達していると12.5%に増えていたと報告されています。
 そこで、現在は粘膜下層への浸潤が1mm程度までであれば、内視鏡治療の対象としてよいと考えられています。また、病変によっては、少し深く浸潤していても、完全摘除生検を目的に内視鏡治療を行うこともあります。この見極めが、非常に重要です。ピットパターンによる診断など、内視鏡的な正確な診断技術が必要とされます。
 2cm未満という大きさの条件は、スネアの大きさによるものです。ポリペクトミーやEMRで用いられるスネアには、いくつか種類がありますが、いずれも輪の直径が2~3cm程度です。そこで、スネアを用いて、がんの取り残しがなく、安全に無理なく一括切除できる大きさの目安が2cm程度となります(ESDという方法では、2cmを超えた病変についても、内視鏡治療の対象となります)。
 ポリペクトミーやEMRで切除し、回収した病変は、決められた処理を施し、病理診断に回されます。そのうえで、改めて正確な病期を決定し、必要となれば、追加の手術が行われることもまれにあります。

治療にはさまざまな形のスネアが用いられる

年間100件以上の内視鏡治療を実施

 内視鏡治療は、海外に先駆け、日本がリードしている分野です。私自身、その草創期からこの分野に携わり、技術や機器の進歩とともに研究、臨床を重ねてきています。その間、国内の先駆者のもとや、先駆的施設に赴き、研鑽(けんさん)を積んできました。国内留学先の一つ、国立がん研究センターでの研修を終えた1991年より、当施設では、大腸がんの内視鏡治療を積極的に始めています。
 現在は、私を含めて7名の内視鏡医と大学院生が検査から治療まで担当しています。日本でも有数の充実したスタッフ体制により、年間4,000件の検査、700件を超える治療を実施しています。2011年の大腸腫瘍(ポリープと早期のがん)に対する内視鏡治療の件数は742件で、このうちEMR(ポリペクトミーを含む)は660件、最新治療のESDは83件です。

大腸がん内視鏡治療件数の年次推移

治療の進め方は?

 下剤などで腸内を洗浄し、きれいにしてから治療を開始します。切除にかかる時間は5~10分程度、当施設では1泊2日で実施します。

大腸がんの「ポリペクトミー・EMR(内視鏡的粘膜切除術)」治療の進め方とは
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