小細胞肺がんの集学的治療 手術、化学療法、放射線療法の組み合わせが大切
2018.6 取材・文:柄川昭彦
小細胞肺がんは、肺がん全体の10~15%を占めるがんで、非小細胞肺がんとは治療方針が異なります。小細胞肺がんは、限局型と進展型に分類され、それぞれに適した治療が行われます。限局型でⅠ期のがんは、手術の対象となりますが、手術の対象とならない限局型に対しては、化学療法(細胞障害性抗がん剤治療)と放射線療法を併用する化学放射線療法が標準治療となっています。進展型の小細胞肺がんに対しては、化学療法が行われます。非小細胞肺がんの治療では、遺伝子変異別の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤が使われますが、まだ小細胞肺がんではそれらの有効性が十分に証明されていません。
小細胞がんの特徴 喫煙者に多く、増殖が速く、転移しやすい
肺がんは、がん細胞の種類によって、「小細胞がん」「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」などに分類されています。また、「小細胞肺がん」と、その他のがんをまとめた「非小細胞がん」の2つに分けることもあります。小細胞肺がんとその他の肺がんでは抗がん剤や放射線に対する反応の違いから治療方針が異なるため、治療に関しては、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けて考えます。
小細胞肺がんは、肺がん全体の10~15%程度を占めています。喫煙が重要な危険因子となるため、女性に比べて喫煙者が多い男性の割合が高くなります。喫煙者の減少に伴って近年はやや減少する傾向にありますが、喫煙者でなくても受動喫煙も原因となるため注意が必要です。
小細胞がんのがん細胞は、他のがんの細胞に比べて小さいのが特徴です。また、増殖速度が速いため、がんの進行が速く、小さなうちから転移を起こします。そのため、早期に発見するのが難しく、発見された時点で、すでにリンパ節や他の臓器に転移が起きているケースが多くみられます。半年前の検診ではわからなかったのに、急に大きくなって認められることも少なくありません。
小細胞肺がんと確定診断するためには、組織を採取して病理検査を行う必要があります。ただし、その前に小細胞肺がんだろうと予測できることもあります。たとえば、肺にある腫瘍は小さいのに、その割にリンパ節転移が広がっているような場合です。さらに喫煙者ということになれば、小細胞がんの可能性が高くなります。小細胞肺がんは進行が速いので、そのような場合には、早めに細胞・組織検査(あるいは病理検査)をすることが大切です。
小細胞肺がんは「限局型」と「進展型」に分類
小細胞肺がんのステージ(病期・がんの進行度)分類は、基本的には非小細胞肺がんと同じです(表1参照)。しかし、実際の治療に際しては、ステージI期で見つかる小細胞肺がんが少ないことから、治療方針の違いで「限局型(LS=limited stage)」と「進展型(ED=extensive stage)」に分類するのが一般的です。
肺は、胸の真ん中で縦隔と呼ばれる空間を境に左右に1つずつあります。右肺は、さらに上葉、中葉、下葉にわかれ、左肺は上葉と下葉の2つにわかれています。縦隔には、心臓や大血管、気管、食道などの臓器があり、肺と縦隔にある臓器は胸膜で覆われています。
限局型とされるのは、がんの拡がりが片側の胸の中(胸腔)と反対側の縦隔と鎖骨上窩リンパ節までに限られていて、がん細胞を含む胸水や心のう水(心臓の周りの水)がないものです。このような状態であれば、範囲が限られるため、根治的な化学放射線療法(抗がん剤と放射線を同時治療)を行うことができます。
進展型とされるのは、限局型の範囲を超えてがんが広がっている場合です。
表1 肺がんのTNM分類によるステージ
N0 | N1 | N2 | N3 | M1a | M1b | M1c | |
T1mi | IA1 | ||||||
T1a | IA1 | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T1b | IA2 | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T1c | IA3 | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T2a | IB | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T2b | IIA | IIB | IIIA | IIIB | IVA | IVA | IVB |
T3 | IIB | IIIA | IIIB | IIIC | IVA | IVA | IVB |
T4 | IIIA | IIIA | IIIB | IIIC | IVA | IVA | IVB |
限局型の治療1 Ⅰ期なら手術と術後化学療法
限局型の小細胞肺がんで、手術の対象となるのは、Ⅰ期(がんが3cm以下、リンパ節転移なし、遠隔転移なしの場合)に限られます。手術は、がんが肺の外側(末梢)にできている場合に行われるので肺葉切除が選択されます。さらにリンパ節郭清が行われます。ただし、前述したように、Ⅰ期の段階で術前に小細胞肺がんが診断されるケースは、あまり多くはありません。
肺に小さな腫瘍が見つかり、小細胞肺がんと診断がつかないまま手術を受け、手術後の病理検査で小細胞肺がんと診断がつく、ということがままあります。小さな腫瘍だと、気管支鏡検査を行っても診断がつかないことが多いからです。
手術の方法は、基本的には非小細胞肺がんの場合と同じです。開胸手術、完全胸腔鏡下手術、ハイブリッド手術あるいはロボット支援手術といった方法があります。現在の主流は、開胸手術と胸腔鏡下を組み合わせたハイブリッド手術です。開胸しますが、従来の開胸手術のように大きく切開せず、ほぼ10cm以下の切開で行います。そこに胸腔鏡を入れ、モニターに映し出される拡大映像と、実際に見ている肉眼視の両方を使って手術を行います。完全胸腔鏡下手術に比べると、傷が2~3cm程度大きくなりますが、一般的には手術時間は短くなります。
手術後には、再発を防ぐ目的で術後化学療法を行います。使用される抗がん剤は、シスプラチンとエトポシドで、この2種類を併用します。1コースが3週で、1日目にシスプラチン、1~3日目に3日連続でエトポシドを投与し、最大4コース行います。
小細胞肺がんと診断がつかないまま手術を行い、術後に小細胞肺がんと診断がついた場合も、術後化学療法を加えます。非小細胞肺がんなら、がんが3cm以下の場合には、術後化学療法は原則として必要ありませんが、小細胞肺がんは転移しやすいので、術後の化学療法が必要とされています。
I期小細胞肺がんで、手術でがんを完全に取りきれた場合には、治癒の期待が高くなります。
図2 限局型小細胞肺がん治療アルゴリズム
限局型小細胞肺がん | ||||||||||
↓ | ↓ | |||||||||
I期 | I期以外 | |||||||||
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ||||||
手術可能症例 | 手術不能症例 | PS0-2※ | PS3※ | PS4※ | ||||||
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ||||||
外科治療+ 薬物療法 | 化学放射線療法 薬物療法 放射線治療 | 化学放射線療法 | → | 各治療法後評価 CRかつPS良好 | ← | 薬物療法 (+放射線治療) | 緩和治療もしくは 薬物療法 | |||
↓ | ||||||||||
予防的全脳照射 |
■手術可能
■手術不能
※PS(Performance Status)全身状態のこと、0~4まで全5段階。
PS 0:全く問題なく活動できる 発病前と同じ日常生活が制限なく行える
PS 1:肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる 例:軽い家事、事務作業
PS 2:歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない 日中の50%以上はベッド外で過ごす
PS 3:限られた自分の身の回りのことしかできない 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす
PS 4:全く動けない 自分の身の回りのことは全くできない 完全にベッドか椅子で過ごす
限局型の治療2 手術の適応がない場合は化学放射線療法
手術が適応にならない限局型の小細胞肺がんに対しては、抗がん剤による化学療法と放射線療法を併用する化学放射線療法が行われます。化学療法は、シスプラチンとエトポシドの併用療法です。この併用療法は、放射線療法との相性もよく、抗がん剤が放射線に対する感受性を高める役割も果たしています。
放射線療法と併用する場合は、1コースが4週で、1日目にシスプラチン、1~3日目にエトポシドを投与し、4コース続けます。放射線療法は、1回1.5グレイ、1日2回で計45グレイ(週10回で3週間)照射します。ただし、1日2回照射は副作用が強いため、1日1.8~2グレイを28~30回、6週間かけて計50.4~60グレイを照射することもあります。
非小細胞肺がんの治療では、手術で完全に取り切れれば治癒も可能ですが、手術できない、手術で取りきれない場合には、基本的に治癒を目指すのが難しくなります。一方、小細胞肺がんの限局型では、化学放射線療法を行って治癒を目指します。化学療法と放射線療法を予定通りに実施することができ、なおかつ抗がん剤の反応がよかった人では、がんが消えてそのまま治癒してしまうことがあるのです。
化学放射線療法は効果の高い治療ですが、抗がん剤と放射線の副作用が重なって現れるため、患者さんにとってはなかなか大変な治療法です。胸に放射線を当てるため、食道炎が起きて食事がとりにくくなったりすることもあります。
限局型の小細胞肺がんで、化学放射線療法が非常によく効き画像上がんが消えた症例で、かつ全身状態が良好な場合には、脳転移を予防するために全脳照射が標準的治療として勧められています。化学療法は全身療法ですが、抗がん剤が脳に届きにくいため、画像には映らない微小な脳転移があるかもしれないので、それを死滅させるために放射線を照射します。
ただし、脳に放射線を照射することにより、記銘障害などの副作用が現れることがあります。そこで、高齢の患者さんや、脳梗塞を起こしたことがあるよう患者さんの場合には、注意が必要です。予防のための脳照射は誰にでも行って良い治療ではありませんので、担当医と相談の上でやるか否かを決めましょう。
進展型の治療 化学療法でよい状態の維持
進展型の場合には、治療は化学療法が行われます。基本的には、治癒を目指した治療ではなく、できるだけがんの進展を抑え、よい状態の期間を延ばすことが目標となります。
プロフィール
坪井正博(つぼいまさひろ)
1991年 国立がんセンター中央病院
1996年 東京医科大学助教
2007年 東京医科大学准教授
2008年 神奈川県立がんセンター呼吸器外科医長
2012年 横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター呼吸器病センター外科、化学療法部准教授
2014年 国立がん研究センター東病院呼吸器外科科長、横浜市立大学医学部外科治療学客員教授